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冷蔵庫とマヨネーズと、

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日曜の朝8時半。マヨネーズを手にした俺は、シズちゃんの部屋の冷蔵庫の前で途方に暮れていた。
なぜかって?俺は今そんなこと説明している場合じゃないんだよ、情報はやるから自分で考えてくれ。料金はまけておいてあげるから。…俺は一体誰に向かって言ってるんだろう。


まずは1つ目。シズちゃんは俺に冷蔵庫を触らせてくれない。正確には「触らせてくれない“ようになった”」。
理由は知らない。以前くだらないことで喧嘩になった際に俺がちょっとした嫌がらせのつもりで牛乳パックの中身を飲むヨーグルトに変えたことがあるので、多分そのせいなんだろうとは思っているけど。(ぐびりと思い切り嚥下した牛乳がほのかに酸っぱかった時の驚きは相当のものだったらしい。悪くなった牛乳を飲んだところでどうにかなる身体でもないだろうに)

2つ目。ホットケーキの生地にマヨネーズを入れて焼くとホットケーキミックスのパッケージのようにふっくらとした焼き上がりになる、らしい。昨日テレビでお料理研究家のなんとかっていうおばさんが言っていた。

3つ目。今日の俺とシズちゃんの朝食はホットケーキだ。昨日得た豆知識を俺が試してみたかったから。
俺に冷蔵庫を触らせてくれないシズちゃんは冷蔵庫から卵と牛乳を取り出し、「小麦粉は戸棚ん中にあっから」と言い残してからコンビニに行った。(牛乳がこれで最後の1パックだったんだそうだ)

4つ目。シズちゃんちの冷蔵庫には貴重品が入っている。
それなりに片付けているとは言っても所詮男の一人暮らし、爪切りや染色剤の買い置きといったちょっとした物がどこに行ったかわからなくなる、なんてこともそれなりにある。だから通帳や印鑑みたいに失くしてはいけない大事な物は冷蔵庫という比較的散らかりにくい場所に保管している、というのがその理由らしい。
チルドの引き出しの中でそれを見つけた時に“まさか冷蔵庫を非常時の持ち出し袋代わりにする気なんじゃ”という懸念を抱いてしまっていた俺は、思ったよりは普通(と言ってもいいものなのかはわからないが)の理由だったので逆に拍子抜けした覚えがある。

5つ目。今年のシズちゃんの誕生日、俺はシズちゃんにマフラーをあげた。あげたところでしてくれるとは思えなかったが、冬の寒空の下シャツとベストだけのバーテン服で池袋を歩いている姿が寒々しくて見ていられなかったからだ。

6つ目、これで最後。シズちゃんが冷蔵庫から出してくれたのは卵と牛乳だけだった。(それはそうだ、昨日俺がテレビでホットケーキとマヨネーズについてのどうでもいい豆知識を得ていた時、シズちゃんはシャワーに行っていたんだから)
だから俺はマヨネーズを拝借しようと冷蔵庫を勝手に開けたんだけど、そこには何ヶ月か前に俺があげたマフラーが密閉袋に詰められた状態で入っていた。ちなみに念のため言っておくけど、いくらシズちゃんといえど防寒具をわざわざ冷蔵庫で冷やすなんて酔狂な真似はさすがにしない。その証拠に、食材以外で冷蔵庫に入っているのは通帳と印鑑と、このマフラーだけだった。



持っている限りの冷蔵庫とマフラーに関する情報をどう弄くり回しても、今の俺には自分に都合のいい解釈しかできない。そんなおめでたい状態の俺の耳に、カンカンとアパートの階段を誰かが上ってくる音が飛び込んできた。そんなに住人の多いアパートではないから、牛乳を買って帰ってきたシズちゃんの足音だろう。

階段を上がりきった足音は、2階の奥から3番目にある部屋(つまり俺の今いるシズちゃんの部屋だ)に近づいてくる。
あと6歩、5歩、4歩。
頭の中でカウントダウンをしながら俺は考えていた。勝手に冷蔵庫を開けたことを知ったらシズちゃんはどうするだろうと。
またなんかやったのか手前だなんて掴みかかってくるだろうか。そうしたら俺は冷蔵庫の中に隠れてしまおう。大人一人が入れるようなサイズじゃないってことは置いといて、今の俺なら冷蔵庫の中でも10分弱くらいなら凍死せずに生きていられるような気がするんだ。顔がすごく熱いから。
作品名:冷蔵庫とマヨネーズと、 作家名:松田