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手を伸ばして、そして彼は。4

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「本当に退院して大丈夫なんですか」
 虎徹の荷物を持ちながら、バーナビーが心配そうに付き添う。
「これ以上入院する必要はないって医者も言ってただろ。2、3日実家でゆっくりしてから事務仕事には復帰しないと」
「だから虎徹さんのサイン以外は僕がやってあるって言ったじゃないですか」
 医師と看護師に見送られながら、駐車場にあったバーナビーの車に二人で乗り込んだ。
「あーそいや俺の車駄目になっちゃったな、保険利くのかあれ」
「一応駐車場に入れときましたよ、車。動きはしましたけど、外装ベコベコでした」


 バーナビーが退院してから遅れる事1ヶ月。ようやく虎徹も退院と相成った。
 セキュリティの関係で、彼の母と娘が見舞いにこれたのは意識が戻る前と、意識が戻ってすぐの2回だけだ。流石に一時は重体になったのに会えなかったということもあり、娘の楓から要望が出たらしい。
 タクシーで帰るという虎徹の予定を止めて、自分が送ると申し出たのはバーナビーだ。
「でもほんとありがとな。助かったわ」
「いえ、これくらい」
 ウロボロスのあと、バーナビーは嘘のように棘が取れた。憎まれ口も叩いたりするけれども、昔みたいにはっきりとした壁や境界線を感じる事も少ない。
『あら、ホント懐かれちゃったわねぇ』
 見舞いに来ているファイヤーエンブレムが感心したように呟いていた。息子には大きいけれども、彼はもう一度成長しなおさないといけないんだからそれ位でちょうどいい。
「とにかくちゃんと休んでから復帰してくださいよ」
 バーナビーは怪我を心配すると同時に、早くワイルドタイガーの復帰を望んでいた。今ならきっと二人で最高のコンビネーションでバディを組める自信があった。まだまだあの事件の爪あとはそここに残っていて、混乱に乗じた犯罪も少なくない。
 とにかくヒーローが足りていない。スカイハイもロックバイソンも自宅療養中だ。
 女性陣+αとバーナビーだけでは足りていない。
「わかってるって」
 街の変わりようや色々な事を話しているうちに、バーナビーの車は虎徹の実家に到着した。
 虎徹をおろして、虎徹の荷物を後部座席から出していると、玄関が勢いよく開けられた。
「お父さん!」
「おー楓。ひさしぶり」
 ひらりと手を振れば、楓が虎徹に抱きついてきた。
 バーナビーはそれについて微笑ましく思いながらも、楓が飛びついたまさに一番重症なわき腹を気にしてハラハラしてしまう。
 一歩引いたところで2人を見ると、やっぱり親子なんだと思う。特にハニーブラウンの大きな眼はそっくりだ。そして、虎徹が「父親」なんだと嫌でも実感する。
 散々抱き上げられて憎まれ口を叩いていた楓の声がぴたりと止まった。
「どした?楓」
「……っ、ばッ、バーナビーだ!!」
「こら、人を指差すの辞めなさい!」
 虎徹の肩越しに楓は一瞬だけきょとんとした顔を向けて、そしていきなり紅潮をしたかと思うと、バーナビーを指差して叫んだのだった。虎徹のちょっとずれた指摘があまりにもおかしくて、バーナビーは口を押さえてぷっと笑った。
 あぁ、なんだかこの小さな子供に嫉妬してた自分があほらしい。
「お久しぶり、楓ちゃん。病院で会って以来かな」
「え、お前ら会ってたの?」
「ちょっお父さん!なんでバーナビーがっ」


「ちょっとあんたたち。玄関先で騒いでないで家に入りなさい!」
 三者三様の噛み合わない反応をしていたら、玄関に出てきた虎徹の母親に一喝される。三人顔をあわせると、大人しく「ハイ」と声をそろえていい返事を返した。 
 






「虎徹、もう大丈夫なのかい?」
 出されたお茶を飲みながら、4人でテーブルを囲む。
「あぁ、この通り。2、3日したら仕事にも復帰するしよ」
「虎徹さん……ホントにすぐ復帰するつもりなんですね……」
「バーナビーさんには苦労をかけてしまってるみたいですねぇ」
「いえ、僕のほうこそ迷惑ばっかりかけちゃって」
「バニーちゃんは迷惑っていうより心配かけさせてたけどな」
 虎徹とバーナビーと虎徹の母と、和やかに進む会話の端っこで楓が真っ赤な顔で、ちらちらとバーナビーを見ていた。そういえばデビューしてすぐから煩かったっけなぁ、とまるで遠い昔になってしまったかのような以前を虎徹は思い出す。
 顔を赤くしていつもの態度からは想像もつかないような慎ましやかな仕草でお茶を飲む娘を感慨深げに眺めた。バニーちゃんなら娘の相手に、いやいやソレはちょっと面白くない。
娘の遠い未来、白いドレスに身を包んでいるのを想像してみると、娘の隣にいるのは同年代の青年で、そしてなぜか。バーナビーは自分の隣に。
「え、うそ。なんで?」
 ぽんと頭に浮かんだその光景は、まるで家族のようで。
 気づけば若干の動悸がして、思わず黙った虎徹に、バーナビーの心配が炸裂してしまって、またなし崩しに漫才のような掛け合いが始まってしまった。







「じゃあ僕はこれで」
 結局待機には虎徹の実家が遠い事もあり、バーナビーは夕食を前に帰っていった。
 借りてきた猫のようだった娘はバーナビーが帰るなり、眼の色を変えて質問攻めにしてくる。
そんな詮索を当たり障りのない説明でかわしつつ、昼間の頭に浮かんだ想像に頭を傾げる。
「もーおれどうしたんだよー」
 ただ穏やかに笑う亡き妻の遺影に話しかけた。
 ヒーロー好きだった彼女が生きていれば、自分の相棒の事をなんと言うだろうか。