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葎@ついったー
葎@ついったー
novelistID. 838
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die vier Jahreszeite 006

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「ちょっと待て。お前まだあんな昔のこと根に持ってんの?」

ぷい,と顔を背けるアーサーに,流石に俺の眉も跳ね上がる。

「あのなあ!あのときも散々云っただろ?あれは完全な濡れ衣!」
「どーだかな!」
「だいたいあんなコンビニで買ったようなエロ本で興奮するわけないだろ?この俺が」
「お前の云うこと,意味わかんねー」
「それに,だ。ヒゲについてはお前だろお前!人がぐっすり寝てるところに忍び寄って落書きするとかどんなクソガキだよ。しかも油性だぜ油性!」


思い出すと腹の底からじわっと苛立ちが湧いてきた。
あれは遡ること三年前。
クラスメイトから預かったそのテの本を机の横に積んであったのをコイツに見られ,ものすごい口調で罵られた。
馬鹿だの変態だのすっとこどっこいだの他にもなんだっけ。
まぁとにかく罵られて,それを相手にしなかったんだ。俺は。大体相手はコドモだしね。
そしたらその後とんでもない仕返しをされた。
前日夜更けに家を抜け出して,ちょっとしたお遊びに出かけた俺は,昼過ぎから眠気がどうにもできなくなって午睡を愉しんでいた。
そこへ忍び寄ったのがこのクソガキ・アーサー。
何を思ったのか机のペン立てから油性マジックを引き抜くと,俺の顔にヒゲの落書きをしやがった。
挙句の果てに額には「変体」とも。
変態って書けないのが子どもらしい,なんて発想は寝起きの俺にはできなかった。
目を覚ました俺とアーサーは家が揺れるほどの大喧嘩。
帰宅した母親が止めに入るまでに俺の部屋は滅茶苦茶になった,ていうわけ。
割れてしまったCDケースや破れたポスターとか,恨みは三年経った今でも尽きない。

つーん,と澄ました顔を見遣って,俺はしみじみとため息を吐く。
腹立つことこの上ないクソガキ。
なのに,どうしてか放っておけないんだよなあ。
本当に,俺ってば懐深い。

口に出して云おうものならまたぎゃんぎゃん噛み付かれるのは明らかなので,胸の裡でひっそりひとりごちる。
カップに注がれた甘い紅茶の美味しさに免じて,今日のところは許してやるか。

「…お前こそ」
「ん?」
「紅茶,どうなんだよ」
「ああ,美味いぜ。お前ほんと紅茶だけは上手に淹れるよなー。目玉焼きひとつまともに作れないくせに」
「う,うるせー!今はもう作れるからな!それに!俺は半熟のゆで卵の方が好きなんだ!」
「そーですか。はいはい」

フォークをぎゅっと握り締めて怒るアーサーの口の端にはコアントロの風味を効かせたクリームがついている。
俺はテーブルに手を着いて伸び上がるとひょい,と顔を寄せてそのクリームを嘗め取った。

ん,いい味。やっぱり俺ってば最高。

「お,お,お前,何する…!!」

うっとりする俺と打って代わって,アーサーは真っ赤な顔のままぷるぷると震えている。

「あ,悪い悪い。お子様にはちょーっとばかり刺激が強かったか?」

云いながらぱち,と片目を瞑ると,あろうことかアーサーのヤツ,右手に握り締めたフォークを振りかぶりやがった。

「ばっ!馬鹿お前!刺さるから!刺さるからフォークは止めろ!」

細い手首を掴んで必死に止める。
しかし収穫時のトマトよりも顔を真っ赤に染めたアーサーは意味不明のこと喚きながらまだ殴りかかろうとしてくる。

「だーッ!ごめんごめん悪かったって!」

必死になって謝ると,ようやくジロっと睨みつけて,そのまま大人しく椅子に座った。

「…ったく,冗談くらい聞き分けろよ」
「お前のくだらない冗談になんかつきあう趣味はねえ」
「あっそ」

窓の外は音もなく雪が降り続いている。
それにしたってせっかくのクリスマス。
このお兄さんがどうしてこんなクソガキと一緒にロマンティックの欠片もないひと時を過ごしてるんだか。

そう思うと虚しさに駆られそうになるけど,口を開けば悪口雑言のアーサーも,黙ってケーキをむぐむぐとやる姿は見ようによってはまぁ,可愛いと云えなくもないわけで。

これはこれで悪くない。
そう思う俺だった。