二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

君の笑顔が見れますように

INDEX|1ページ/1ページ|

 
七月になると、雷門中学校には大きな笹が用意される。各学年ごとに飾りつけを用意して、賑やかになった笹に最後は短冊を飾る。それが雷門中学の七夕イベントであった。終わりのHRで配られた黄色の短冊に何を書こうか、それをぼうっと考えていた一之瀬は背後に気配を感じ振り返った。

「よっ!日本のイベントも楽しいだろ」
「なかなかね」
「でも悩んでるみたいだな」
「そういう土門はもう書いたの?」

 一之瀬の問いに土門はああと頷くと、右手に持っていた緑色の短冊を目の高さまで持ち上げた。ひらりと揺れた短冊には彼の字で願い事がしっかりと書かれてあった。

「なるほどな」

 俺はどうしよっかなーと呟いて、一之瀬は背もたれに身体を預けて天井を見上げた。呑気に悩み出した一之瀬に土門は助言するように先程廊下ですれ違った円堂の手に握られていた短冊のことを教えてやることにした。

「円堂のやつ、サッカーのこと書いてたぜ」

 我らがキャプテンが短冊に何を書くか、それが容易に想像できた一之瀬は円堂らしいやと言って楽しそうに笑った。自分もサッカーに関連することを書こうかとぼんやりと考えながら一之瀬視線を天井からグラウンドに向けた。すると、そこにはすでに短冊を書き終えたのか、ユニフォームに着替えたチームメイトの姿があった。サッカーボールを見ると、自分も早く行きたいという気持ちが沸々と湧きあがってくる。願い事なんてさっさと書いて早く練習に行けばいいものの、なかなかその願い事が浮かばず、一之瀬はグラウンドを見つめた。

「俺はてっきり一之瀬もサッカーのこと書いてると思ったんだけどな」

 悩むなんて意外だと言いたげな声に、一之瀬は「サッカーがまたやりたいって願いは叶ったからなあ」とグラウンドに目を向けたままごく自然に答えた。そうやってグラウンドを眺めていると、聞きなれた声が耳に届いた。

「円堂くーん!響監督、今日は急用が入ったからこれないって連絡があったよー」
「えっ、響監督今日来れないのか…。ん、分かった。あんがとな秋!」
「どういたしまして。今日も頑張ってね」
「おう!」

 選手とマネージャーの何気ないやり取りを見ていた一之瀬はそっと瞼を下ろし、ぱちっと目を開けるとグラウンドから視線を外し机に置いていたペンを手に取った。そして、黄色い短冊にサラサラとペンを走らせ、一之瀬はペンケースにペンを片付けて立ち上がった。

「土門、さっさと飾って練習に行こうよ」
「おいおいお前が待たせたくせによく言うよ」

 土門がおどけて言うと、そういえばそうだったなと一之瀬はカラカラと笑った。ペンケースを鞄に放り込み、一之瀬は鞄を肩に掛けると願い事を書き終えた短冊を手に持ち教室を出た。土門は頷いてその後に続いた。前を歩く一之瀬が今日のメニューは何かと楽しみにしている声を聞きながら、一之瀬の手に握られている短冊を見つめた。普段はアメリカ気質が強いわりにこういうときは日本人っぽい友人に土門は苦笑した。

もっと欲張りになっていいと思うんだけどな

 二度とサッカーが出来ないと医者に宣告されながらも血の滲むようなリハビリを乗り越え復帰したのだ。もう一度サッカーするために多くのものを犠牲にしたというのだから、もっと貪欲になってもいいのに。と土門は思う。まあ突然日本にやって来て、円堂のサッカーに惹かれ日本に残ることに決めたのだからやりたいことはしているのかもしれない。でも、彼はいつも彼女に対しては控えめで彼女を優先するところがあった。それが、気遣いなのか臆病風に吹かれているのかは分からない。
 どちらにせよ、大切な彼が考え抜いて出したひとつの願い。ひらひらと揺れる黄色い短冊に書かれたささやかな願いが叶うように祈りながら、土門は短冊をできるかぎり高い位置へ飾ろうと心に決めたのであった。