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手を伸ばして、そして彼は。5

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虎徹を実家に送っていてから4日目の朝、予定通り虎徹は実家からそのまま出社してきた。
 出社はしてきたものの、上層部への報告や激励、あいさつ回りなどたらい回しにされたらしく、席に戻ってきたのは昼過ぎだったらしい。「らしい」というのはバーナビーは朝から迎え出るつもりでいたのに、よりにもよって自宅を出る前に出動命令が出てしまい、帰ってきたのが昼下がりにもなろうかという時間だったからだ。
 だからバーナビーがようやくオフィスに帰ってきた時には自分の席の隣に、待ちわびた人の背中があった。

「虎徹さんっ!!」
 思わず部屋に入ってすぐに呼ぶと、件の人は椅子に座ったままくるりと振り返る。
「ハァイ、お疲れ様、バニーちゃん。3日ぶり」
「復帰、おめでとうございます」
 つかつかと早足で歩み寄ると、虎徹の企んだような笑みがふっと自然な形に綻んだ。
「こんなに長い間休んだの初めてよ、俺」
 虎徹が二人のL字の机の間に寄りかかると、ふっと息を吐くのが見える。顔色だって少し悪い。
 部屋を見渡してみれば自分達二人しかいない。ならば大丈夫だろうと、顔を覗き込む。
「……まだ本調子じゃないんでしょう、無理しないで下さい」
「いやー若者が走り回ってるの見て、黙って寝てらんないよ、おじさんだって」
 そうして、無理をして、きっと取り返しのつかない事態になるのだ。アカデミーでルナティックに遭遇した時だってそうだった。立ち尽くす自分の前に躍り出て。
「そうして無理して、取り返しの付かないことになったらどうするんですか!!」
 そうして、自分の前からまた去っていくのかと。思わず声を荒げると、きょとんとした顔の虎徹がバーナビーを見上げていた。じっとバーナビーの顔を眺めた後、虎徹は立ち上がって、手早く眼鏡を取り上げるとぐっとその頭を抱え込んで、自分の肩口に押し付けた。
「バニーちゃんは泣き虫になったなぁ」
「なにをいってっ……」
 最初は何を言っているのか、判らなかった。目の前の彼の肩口がじわじわと濡れていくのを呆然と眺めて、ようやくまた自分の目から涙が流れているのを知った。
「ごめんな。おじさん性格がこうだからよ」
 ぽんぽんと背中をまた優しくたたかれて、思わずその体に縋りついた。自分よりも僅かに細かったその体は入院している間に随分とまた細くなっていた。
 その細い身体をかき抱いて、ひとつの決心をする。 
「もういいです。無理、させません、僕が」
 ずずっと鼻をすすって、眼もきっとまた真っ赤だ。無様だの惨めだの感じてられない。
 その両肩を掴んで、じっとその顔を見つめて、そして宣言した。
 目の前の大切な人を繋ぎ止めなければ、きっとこの人はまた自分の目の前で無茶をする。
 ならば自分がそうならないように立ち回ればいい。幸い、今自分にはこの人の隣に立つ権利も義務もある。
 考えればとても簡単なことなのだ。
「バーナビー?」
「もう目の前で大事な人が怪我をするの、嫌なんです。僕が愛した人たちは皆僕の目の前で倒れる。あなたまでそんなことになるのは、もう嫌だ。僕は何回泣けばいいんですか。倒れられたくないなら自分のこの手でどうにかするしかないじゃないですか。好きなんです愛してるんです、あなたを。失いたくないんですっ!!」
 ただ、言い募る。目の前の虎徹の顔を見れば、真意はそれなりに伝わっているようだった。
「俺、37の子持ちのおじさんだぜ?バニーちゃん」
「――そんな事気にしてるようなら今更泣いたりしてません。僕を甘やかした責任、取ってください。――虎徹さん」
 参ったなぁと、頬を指でかく虎徹の顔は赤い。
「俺でホントにいいの?」
「貴方じゃないと駄目なんです」
「俺は――お前とそういうことになる覚悟、まだ出来てない」
 まだ、と虎徹は言った。想いを返してくれる気は、少なからずあるらしい。
「今はそれでいいです。覚悟なんかいらないくらい、一緒にいればいいんですから」
 あ、なんだか今ようやく笑えた気がする。バーナビーがそう思ったくらいだから、目の前の虎徹も一瞬驚いた顔で、そして次の瞬間、笑った。
 彼が娘に向ける慈愛の笑みとはまた一味違った艶やかな笑みを。
 今はそれだけで満足だった。






 ******



「え、バニーちゃん俺んち来るの?」
 終業後、久しぶりに自宅に帰ろうとした虎徹を、バーナビーが腕を掴んで引き止めた。
 車で来ているから送っていく、というか一緒に帰る旨を伝えると、そんなかわいくない返事が帰ってきた。
「だって虎徹さん、そのまま一人で家に帰ったらきっとアルコール買い込んで飲むでしょう。まだ止められてるの、僕知ってるんですよ」
「バニーちゃん、可愛くないぃ。俺の楽しみ知ってて潰すのかよー」
「可愛いのは虎徹さんだけで十分でしょ。さっさと治して、早く現場復帰してくださいよ」
 きっと現場復帰した後のビールはおいしいですよ、と言ってみれば、なるほどそれもそうかと頷いている。本当に変なところで単純だ。多分、久々に飲むアルコールなんだから、そんな大した量も飲めないだろう。なにも飲ませないとは言っていないことに、多分この目の前の人は気づいていない。
 しょうがない振りで1本だけ出せばきっと喜びもひとしおだ。
 盛大に喜ぶ虎徹の顔が思い浮かぶようで、バーナビーは堪えきれずに笑う。

 
 手を伸ばして、そして彼はこの手をすくい上げてくれた。 
 復讐という暗闇から、一気に引き上げられた彼の隣は、気づけば太陽のようにとても暖かくて、そしてとてもまぶしい場所だった。


 だから、この場所を守る為に、闘う。

                        【終】