禁煙
未成年が煙草を買うのは容易ではない。インターネットで裏ルートから購入した。
この一箱で止める。
シャークはそう決意した。ベッドの上に腰かける。
箱を開けて一本取り出す。唇にくわえてから長らく使ってなかったライターで火をつけた。
煙草なんて百害あって一利なし。そういうことは頭にあったが、不良仲間とつき合ううちに自然と悪い遊びが身についていった。シャークは一人暮らしで咎めるものは誰もいない。自分の家でならば堂々と吸える。
「……はぁ…」
洗ったばかりの灰皿に灰を落とす。
一人になると無性に遊馬が恋しくなる。
遊馬とまだ付き合って間もない。キスをしたことも手を繋いだこともない。
でも、二人でタッグを組んで決闘をした。
あの時の爽快感は忘れられない。自分の手で希望皇ホープを破ったときよりも、何倍も気持ち良かった。
また二人で決闘をしたい。遊馬はまだまだ決闘者としてヒヨッコだが、もっと強くなると確信できる。
遊馬が強くなっていくのをこの眼で見たい。
「ゆう…ま」
感傷に浸っていると、後ろのドアが開く音がした。玄関のドアが開く音にも気がつかなかったとは不覚だった。
「シャーク!決闘しようぜ!」
遊馬がズカズカ入ってくる。合鍵を渡したのはシャークだ。
「お前…来るなら来ると連絡」「あー!!煙草!」
遊馬はマルボロを指して「未成年が煙草を吸ったら駄目なのに!」と激怒する。
「うるせぇ。誰にも迷惑かけてないだろ」
「でもっ……ダメなもんはダメなんだよ!」
遊馬はシャークの煙草を奪うためにベッドに飛び乗った。そのままシャークの身体を抑えつける形で手に持っている煙草を掴もうとする。
(危ない奴だな……)
火がついているものを持って暴れて、ベッドに引火してしまっては取り返しがつかない。
シャークは肩を押されても抵抗せずに力を抜いてそのまま後ろに仰向けに倒されてやった。手から煙草をもぎ取られても反抗しない。
「……俺、シャークが肺ガンとかになるの嫌だから」
遊馬が灰皿に煙草の先端を押しつける。
倒れたシャークに遊馬が股がる体勢になった。
「それに」
シャークの首に鼻を寄せる。すう、と息を吸い込んだ。
「シャークの、ニオイ好きだから。タバコ臭くなるのはやだ」
「……」
他人に自分の匂いを嗅がれたと思うと羞恥心が湧いてきた。しかし、それ以上に遊馬の気持ちに答えたいと思った。
「……だったら、キスしろよ」
「え?」
「俺が煙草が欲しくなるたび、お前がキスしたら煙草なんかいらなくなる」
驚いている遊馬の唇に口づけた。
首に腕を回し、二回、三回と繰り返し唇を合わせる。
「シャーク…!」
「ほら、早くしろよ。俺に禁煙させたいんだろ」
ぎこちなく唇を押しつけてくるのがなんとも可愛い。
遊馬が柔らかい感触に夢中になっているとシャークが遊馬の唇を舐めた。
「ひぇっ…?」
変な声を出して、遊馬が上体を起こす。
その初な反応にシャークが笑った。
「そんなんじゃ、俺を満足させるのなんか無理だな」
自分の上にいる遊馬の体を押し退けて、ベッドから立ち上がる。
まだ遊馬は呆然としている。
「続きは、また今度な」
自分の手で遊馬を自分好みにしつけるのも悪くないかもしれない。
シャークは遊馬の好きなおにぎりでも作ってやるかと思いながら部屋を後にした。