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【APH】百年の恋をも、【菊ギル】

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 あまりものですけれど、と前置きされながらも立派な大根を近所の人にわけてもらい、菊はニコニコと笑いながら家路につく。
 妻の実家から頂いて、と些か照れながらも渡されたそれは中々見事な大根で、家族で食べてもあまってしまうんです。だから是非とも、と三本も頂いてしまった。
 ふろふき大根にしても良し、おでんやブリ大根も良い。干して切り干し大根や、たくあんにするという手もある。
 さて何にして食べよう、と食事内容に心躍らせつつ家に戻った菊は、玄関の鍵が開いている事に気がつき、おや、と首を傾げた。
 出かけた先は数軒となりではあるが、最近は何かと物騒だから、と菊は常に鍵をかけるようにしている。だからこそ確かに鍵をかけてでかけたはずで、流石にそんなことまで忘れてしまうほど、耄碌したとは思いたくない。
 では、物盗りか。考えつく事と言えばそれくらいだが、それにしてはあの賢いぽちくんが騒いでいないのがおかしい。
 まさか犯人に痛めつけられてしまったか、それとも現在進行形で口を塞がれているのか。こうなったら推定武器(しかも貰い物)の大根で戦うしか……! と半ば乱闘を覚悟した途端、聞き覚えのある声がして、菊はがっくりと項垂れた。

「おー、よしよし! ぽちは賢いなー!」

 あんあん! とぽちくんが嬉しそうに返事をしてみせるあたり、間違い用もなくあのひとですね、と菊は一旦大根を玄関脇に置き、今の方へと向かう。

「──何をしてらっしゃるんですか、ギルベルトさん」
「ふあ? お、ようやく帰って来たな、おかえり」
「ただいま戻りました。……ってそうでなくてですね、」
「見てわかんだろ? ぽちと遊んでた」

 それはわかります、と脱力しながら菊が頷けば、あん! と鳴いたぽちくんが心配そうにこちらを覗き込む。いえいえあなたが心配する事じゃないですよ、と呟き返せば、菊を呆れさせている張本人がケセセセセ! と笑う。
 ──わかっていて、やっているのだ。そのくらいはまあ、菊とてわかっている。

「鍵はどうしたんですか、鍵は」
「んなもんテキトーに乗り込んだ。垣根、だっけか? アレ低すぎんだろ。防犯とか大丈夫か?」

 セ○ムに入ってますから、と返しつつも、そもそも普通一般人の顔ほどの高さがある物を飛び越えるのはあなたくらいでしょう、とも思う。国は亡国でもセンサーにはひっかからないんですね、と菊は知らなくても良い情報をひとつ手に入れた。

「窓も鍵とかついてねぇしよ。入りたい放題だろ、コレ」
「ぽちくんが出入りしやすいようにしてあるんですよ。それに、そんな風に入って来るのはあなたくらいですから」

 以前アルフレッドにも無断で侵入された事はあるが、一度怒ったらそれ以降はきっちり連絡を入れるか、チャイムを鳴らすようになった。それに、一応こう見えてぽちくんは番犬だ。いざとなれば犯人に噛み付くか、敵わないと思えば逃げて近所に助けを求めるくらいはするだろう。

 それよりも、だ。

「そもそもどうしていきなり我が家にいらっしゃるんですか」
「ヒマだったから遊びに来た」
「それ、私がヒマじゃないという可能性は無視していらっしゃいますよね」
「お前が忙しくてもぽちと遊べばいいかと思ったし」

 なあぽち、と笑ったギルベルトに頭を撫でられ、ぽちくんは嬉しそうに目を細める。
 私よりぽちくん優先ですかそうですか、と内心飼い犬に嫉妬しつつ、玄関に戻って大根を回収しつつ、ギルベルト用にお茶を用意する。
 こたつを気に入ったらしいギルベルトは冬の間、気がつくとこうして遊びにくる。大抵は自分が家にいる時なのだが、いないとなると家の前で待っていたり、こうして不法侵入したりする。こうして尋ねて来られるのは嫌いではないが、それでも些か心臓に悪いので、やはり事前に連絡は欲しい、と思うのが正直なところだ。
 お茶とみかんという冬のこたつ専用セットを居間に持って行けば、ギルベルトは早速こたつに潜り込んでぽちくんと遊んでいる。
 行儀が悪いですよ、と一応しかりつつ台の上にお茶を置けば、Danke. と短く礼を言って起き上がり、茶を啜る。あち、と小さく聞こえたが、それは聞こえなかったことにして、菊もこたつに潜り込む。

「いつまで滞在されるんですか?」
「んー……考えてなかったな。ま、飽きたら帰る」

 本当に失礼なひとだ、と苦笑しつつ菊も茶を啜る。口が悪いのも、気まぐれなのも今更、だ。それに振り回されるのも悪くはない、と思えてしまうのだから、惚れた方の負け、なのだろう。

「けど、やっぱりいいな」
「? 何がですか?」
「お前といると、すげー落ち着く」

 だからついこうやって来ちまうんだよな、とギルベルトが微笑み、菊は思わず額を抑えて唸る。
 自覚がない、というのは罪だと思うのだ。呆れてしまうくらい自分勝手なのに、不意に、絶妙のタイミングで心を揺さぶられる。
 冷められるものなら冷めてしまえ、と心中で罵りつつ、菊は笑う。そんなことは無理なのだと、自分が一番知っているからだ。
 自分の言った一言がどれほどこちらに影響を与えているかなどつゆ知らず、ギルベルトは再びぽちくんを構い出す。
 さてどうやってこの無自覚な男に自覚させてやろうかと、菊はひそりと笑った。


 タイトル:確かに恋だった 様。【百年の恋をも冷めさせてほしい】