君の笑顔が見たくって―
菊はあまり笑わないと思う
いつも無表情で感情を押し殺している
それが彼の国の礼儀なのだと分かっていても
恋人の俺の前ぐらいでは笑っていてほしい
そういうのが普通の感情なのではないのか?
「アーサーさん?」
当の本人は不思議そうな顔をして俺の方を覗き込んでいる
「菊、お前『笑う』っていう単語知ってるか?」
菊の宵空の瞳が不思議そうに丸くなる
「当たり前じゃないですか・・・どうされたのですか?いきなりそんなこと言って」
「お、俺は!お前が全然笑いかけてくれないから・・・」
まずい、言ってしまった
思わずうつむく
ああ、今、すっげー誤解されたんだろうなぁ・・・
これで俺の恋物語もおしまいか
「ぷふっ、」
?、今なんて・・・
「そんなこと気にしてらしたんですか!?可愛らしい方ですね」
下を向いていた顔を上げる
菊が可笑しくてたまらない、といった風に微笑んでいた
まるで、花が咲いたようなきれいな顔だった
「ずっと笑わないように我慢してたんですよ、ニヤケ顔を見られたくなくて・・・」
変な顔ですから、と恥ずかしそうにつぶやく
「そんなことない!ぞ・・・むしろすっげぇ可愛いと思う///」
菊の顔が赤く染まる
「そんなことないですっ!紳士と云うものはお世辞が上手で困ります」
「お世辞なんかじゃないぞ!俺は心の底から本当のことを言ってる」
「・・・ありがとうございます」
「じゃあ菊、お願いだ」
「なんですか?」
「もう一回俺に向かって微笑んでください!!」
菊直伝の土下座をしてみる
あー、今度こそ誤解されたー変態紳士とか言われるんだろうな・・・
「いいですよ」
「本当かっ!?」
バッと顔を上げた俺の目の前には
女神のごとき端麗な菊の微笑みがあった
濡れ羽色に輝く髪も、宵の空を溶かしたような瞳も、ちょこんと首をかしげた姿も
まるで神々が遊ぶための人形のように完璧だった
ああ、また君に焦がれて
惚れていく
作品名:君の笑顔が見たくって― 作家名:スピカ@黒桜