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黒い薔薇に埋もれる夢をみた。

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黒い薔薇に埋もれる夢をみた






瞼の裏に広がる世界が虚構であったと気づいたのは、いったいいつのことだったろうか。暗闇に広がるまばゆいような不確かな光たちが、自分にしか見えない特別な存在なのだと、幼い頃の千景は思っていた。母や父に言っても呆れたような顔をされて、なんだか小難しいことを言われた幼少期を思い出し、千景はそんな過去の自分とどこか不器用であった両親を笑った。



「親はどっちもあたま良くってさ、俺が疑問に思うことが不思議でしょうがなかったみたい。」
「こと?」
「んー内容っていうの?なんで海はしょっぱいのって聞いたら塩化ナトリウムがどうのこうのって説明する感じ?」
「……何歳に」
「六歳くらいかな」
「……」



BGMがわりのつけっぱなしのテレビから、へにょりと笑った隣に座る男へ視線をスライドさせ、門田は目を細めた。相手が気づくかどうかの小さなため息を空気に含ませて、もう一度テレビをみつめる。幕末の史跡をめぐるという最近増えてきた特集をくんだ番組は、自分が知っている話や伝記が多くはじめてみるはずなのに、見飽きていた。


「お前は」
「ん?」
「お前は勉強、できるほうじゃないのか」
「なにそれ、ケンカでもうってるの?ジョーダン?」


京平おもしろい、とわらいながら千景の右手が頬を触れた。液体を塗りつけるような動きが少し鬱陶しい。首をのばすことで避けるが、二人がけ用のソファーではたいした距離をとることなどできなかった。


「勉強できたら総長なんかやってねーって」
「そうか?」
「……そうだよ。そんで京平にあうこともなかったんじゃねぇの」
「そうか」


頬からあご、首筋を辿った右手は無垢な子供を装って門田を抱きしめた。