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みっふー♪
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ヅラ子とベス子のSM(すこし・ミステリー)劇場

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「君は君の手足を縛るあの家を恨んでいたかもしれないが、同時にとても愛してもいた、君があの家を、ご両親を捨てられるとは私には到底思えない、そんなことができる君なら私と一緒になる前にとっくにそうしていたはずだ、」
「馬鹿ねあなたは」
前髪を揺らして妻が笑った、
「そんな風に難しく考えることはないのよ、私が選んだのはあなたよ、自分の家でも夢でもない、だからあなたさえいれば他は全部どうだっていいの」
「――君は誰だ、」
険しい顔に男が言った、
「今の君が君だというのなら、私が愛した君はここにはいない」
「……」
今度は妻が黙った。男は続けた。
「君はお嬢さん育ちで、勉強はできたかもしれないが世間知らずで我儘で望むものは何だって手に入る、いずれこの手に掴んでみせると、いつだってそう考えていたはずだ、ナチュラルボーンの君の前じゃ私の野心なんてちっぽけだったさ、君は何一つ諦めちゃいない、あの家を出なかったのはこの先何をするにもその名前が役に立つと知っていたからだし、私を選んだのだって……」
「いい加減にして!」
男を遮り、妻は喚いた。指先に目尻に浮かんだ涙を払う。
「そんなに私を嫌な女にしたいの? あなたを好いてあなたと一緒になった、もっと単純にそれだけのことだと思ってくれればいいじゃないっ」
――ムキー! 感情的になった妻が反則気味に爪を出してきた。おじさんは慌てて避けた。
「いっ、いや確かに俺の言い方も悪かったけどもっ、だけど俺の身にもなってくれよ、苦学生上がりのペーペーがウチの婿候補に、話が来ただけでも舞い上がっていたのに、その上相手が一目惚れの君のキミんちだなんてっ、そんなウマイ話がホイホイ転がってると思えるわけないだろっ」
テンパるおじさんに妻がずびしと斬り返す、
「アナタのそういうところがビンボー症だっていうのよっ! 苦労したのはわかるけどっ、降ってきた幸運を頭から疑ってちゃ掴めるはずの幸せだって逃すわよっ」
「きっ、キミはーーーーーっっっ!!!」
猫背をばねにおじさんが吠えた、
「遠足でこそこそ弁当隠したこともない、君は人生の谷折り部分のことなんて何一つわかっちゃいないんだっ!」
「ええそうよっ! どーせ私は世間知らずの箱入りよっ!!」
堂々巡りの平行線にグラサンとソフトフォーカスが睨み合った、
「……、」
――あっ、あのー、間に入りかけた少年の袖を姉が無言で引っ張った。振り向いた少年に姉が静かに首を振る。
「……やめましょう、」
疲れたように妻が言った。
「こんな風にケンカになるから、あなたとは会いたくなかったの」
――哀しいわよね、誰よりわかり合いたいと思っているのに、妻がぽつりと呟いた。
「……違うことは悪いことじゃないよ」
妻の独り言に応えるようにおじさんが言った。妻がおじさんの方を見た。おじさんはふっと気が抜けたように笑った。
「俺は君の、理解できないそういうところが、わからないなりに好ましいと思っていたりもするんだよ」
「……」
――同じね私と、俯く含み笑いに妻が言った。
(……。)
もはや観念するべき時が来たのかもかもしれない、とにかく気だけはしっかり持とう、少年は思った。
「……でもねーっ、」
顔を上げた妻がひらひらと掌を扇いで言った、
「こういうのってホントたまに会うからイイのよねーっ、四六時中アナタとカオ突き合わせてるとイライラするばっかなんですもの、」
――だからやっぱりアナタとはこれまで通り別居婚で行きましょう、至極あっさり妻が言った、――ウンそーだな異存はないよ、一も二もなく夫も同意した。……ところでラボで働き始めたっていうのは本当かい? ええ、パートタイマーですけどねっ、さんざん周囲を混乱に巻き込んでおいて、夫婦は呑気に世間話を始めた。
「……お父様も渋々だけどお墨付き下さったのよ、家は出たけど、今じゃ週に一度は顔合わせてお茶してるわ、半分は諦めてるみたいだけど、そのたびあんな男とはすっぱり別れて人生やり直せってうるさいの、それさえなきゃいい父親なんだけどね、」
口元に手を当て、からからと妻は笑った、
「でもね、お母様はだいぶわかって下さってるし、あなたのこともあれこれ言わないわ、だから私は大丈夫、心配しないで、……そうね、この先問題になるとしたら私たちの跡継ぎをどうするかってことくらいよ」
妻がちらと呆気に取られる少年を見た、
「そうだ、こちらの弟さんなんかどうかしら? 道場の方はほら、お姉様がウチみたいに婿養子取ればいいんだし……、何ならいい人しょーかいし――」
「私がムコ候補ですっ」
――ウホッ! 山(×)屋根(○)から転がるように降りてきたゴリラさんの顔面を、――ガスっ! 姉の裏拳が一撃に打ちのめした。
「……お断りします、」
手首を振るとにっこり笑って姉は言った、
「ウチのシンちゃんは、誰が何と言おうとウチの大事な長男ですから」
「あらそぉお?」
――いいお話だと思うのに、妻は心底残念そうだった。
「……。」
しかし何だかなー、押さえた眼鏡越し、少年はあれこれと複雑な心境に陥るのであった。同時にそれは当場面ほぼ出番がなかった大部分のギャラリーの心の声でもあった。


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