ヅラ子とベス子のSM(すこし・ミステリー)劇場
……で、せっかく屯所に来たのでオニの副長さんところも覗いてみることにしました。――どうしよう、だってキャラがつかめてないんだよ、不安がるぱっつんの首根っこを掴んで私は声を張り上げました。
「たのもーーーーっっっ!!!」
「……あ?」
瞳孔の開いた人がくわえ煙草で現れました。テンパったぱっつんがわちゃわちゃしてるので、代わりに私が事情を説明しました。話を聞いてる間も始終ダルそーにはしてたけど、思いのほか親切な対応をしてくれました。特に秘密のマイ調味料の作り方を教えてくれるときは人が変わったように生き生きしていました。結果わかったことは以下の通りです。
1 とりあえず出されたものは何にでも卵黄と油と酢を攪拌混合したものに塩こしょう少々で味付けしたものを可能な限り大量にぶっかける。
2 アイロンがけで仕上げる際にも上記ブツは使える。洗濯糊の代わりに使用すると隊服の生地に上質なテカリとツヤが出る。
3 掃除の際ももちろん上記ブツを応用。お茶がら代わりに新聞紙にたっぷり絡ませたブツを畳みに撒いて掃き掃除。畳にまろやかな風合いとツヤとコクを与える。万が一ゴハンどきに畳に輪切りのきゅうりを転がすポカをやらかしても、サラダ感覚で美味しく頂ける。
半日ばかし入り浸っていた屯所を出ての帰り道、
「予想通りっていうか、まぁ基本中の基本だね……」
帳面を閉じながら、ぱっつん師匠がぽつりと言いました。――仕方ないよ、私たち頑張ったよ、私は項垂れる師匠の肩を叩いて励ましました。
こんなとき、師匠の景気づけにはマ夕゛オのおっちゃんの顔を見せてやるのが何よりいちばんの薬です。(※なお、おじちゃんはアラフォーの括りなので今回は比較対象外とします。)
「おじちゃーーーーーん!!!」
私とぱっつんはおじちゃんの(いや公共施設だけど)公園に足を踏み入れました。
「……やぁ、」
半纏姿で振り向いたおじちゃんはちょうどこれから夕食の調達に出るところでした。私とぱっつんもレジ袋を持ってふぁみれす裏手めぐりを手伝いました。
「――ふむ、」
おじちゃんは集めてきた食材を前にイメージをまとめると、これもやっぱり拾ってきたとっておきの食器に盛り付けました。公園に生えていたちょっとした草なんかも飾りに使って、あっという間におふらんす風あれきゅいじーぬ仕立ての出来上がりです。
「スゴイですね!」
ぱっつんが熱気に曇ったレンズを押さえて前のめりに言いました。おじちゃんがテレたように頭を掻きました。
「いやぁ、今日はお客さんがいるからね」
――自分一人ならこんなに凝らないよ、おじちゃんはグラサンの髭面を揺らして少し寂しそうに笑いました。
「……、」
横にいるぱっつんが勝手にきゅんきゅんしているのが手に取るように伝わってくるので、私はちょっとげんなりしました。
木を削ったないふとふぉーくで一緒に晩ゴハンを食べながら、おじちゃんに例の取材のことを話しました。おじちゃんは顎に手を当てました。
「……そうだな、小銭拾ったときなんか、コインシャワーで風呂入りつつまとめて洗濯もやってるよ。就活もあるし、身なりはきちんとしておきたいからね!」
公園の街路樹の木の実から石鹸だって作れるんだよ、こんどいっしょにしゃぼん玉でもやろうか、おじちゃんが言いました。
「ほぇ〜」
――しゃぼん玉、の魅惑の響きが私の心をがっつり捕えた、
「生活のちえですね!」
ぱっつんはいよいよ見境なしに目がはぁとになりつつアル、おじちゃんがコップにでざーとの砂糖水を勧めてくれながら言いました。
「あとね、こう見えて掃除は得意だったんだ、月ごとにスケジュール立ててね、今週はレンジ回り、とか風呂とかトイレとか、特定のカテゴリを徹底的にやるのさ!」
――もっとも、今はしがない段ボールハウス暮らしだがね、はっはっは、おじちゃんの自嘲気味に乾いた笑いが公園の薄曇りの空に吸い込まれました。
「マ夕゛オさん……!」
ぱっつんは真っ赤に目を腫らして今にも泣き出しそうです。
「おじちゃん……!」
私も場の雰囲気に便乗しました。
「子供たち……!!」
おじちゃんとぱっつんと私は、三人で輪になって肩を組んで泣きました。さんざん泣いて気が済んだあとは、おじちゃん自作のフォークソングを大熱唱してガナりました。ちょう楽しかったです。でもあとで苦情が来たのでおじちゃんは公園を退去しなければならなくなりました。その後の行方は知りません。ぱっつんは今も隣で落ち込んでいます。銀ちゃんは血糖値以外特に問題は見つかりませんでした。チクショウ検査代とバリウム飲んでウッてなったときの気分返せといつまでも未練たらしくうるさいです。
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作品名:ヅラ子とベス子のSM(すこし・ミステリー)劇場 作家名:みっふー♪