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春が来たよ、ほーほけきょ

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 冬の到来である。
 寒さが急襲するこの時期、冬は温度だけじゃない。雲雀恭弥は高校受験の真っ最中だ。
 応接室の机はノートや教科書が積まれたり広げられたりと机が見えない。
 まだ二年生の恋人の綱吉は、机の代わりに部屋の床で布に文字を書いている。スカートは気にしないようだ。
 壁には一枚、少しバランスの悪い字で「がんばれ」と書かれたもの。並中の士気上げの垂れ幕だの何だのと散々頼んで書かせた第一号だ。
 勉強に飽きてきた雲雀は制作の様子をぼんやり眺めた。綱吉は丁度レタリングもペン書きも終えたようで、幕を掲げて眺めていた。出来栄えに納得したのか一度頷く。
 壁に張る時邪魔なペンは胸元に差し込んでしまった。
「君に挟む谷間ないじゃない!」
 雲雀は思わずびっくりして声をあげて、恋人もびっくりした。一瞬遅れてちょっと赤くなる。
「しっ…失礼だな!」
 女の子の谷間で挟むなんて中学生の男の子にとっては生唾ものだ。けれど、けれど己の恋人に出来ないことくらいは知っている。
 だってあの子、どう見てもぺったんこだ。
「うるさい!見るな!」
 じっと胸元を見てくる雲雀に綱吉は毛を逆立てる猫みたいになった。
 雲雀は彼女の胸元に覗くペン先から目が反らせない。驚きの覚めない雲雀に仕方なく、綱吉は唸るように絞り出した。
「…………ブラに挟んでるんです」
 そのまま彼女はむくれて垂れ幕を張る作業に移ってしまったから雲雀も机に視線を戻した。それでもシャーペンを握る手は動かせずにいる。
 すると今度は背中を向けている綱吉から珍妙な悲鳴が上がった。
 腕を上げた拍子に胸元のがつるんと滑ってしまった。
「ひょえっ落ちた!」
「落ちたって言うな!」
「落ちてません!」
 近頃その手の言葉に敏感になってきた雲雀は反射的に叫んだが綱吉も叫んだ。
 確かに彼女は胸元を押さえつけていて落下は防いだらしい。
 「落ちた」を自分に置き換えていた雲雀は思わず赤面した。
 柔らかそうで、急に口内の唾液が気になった。でもここで飲み込んだら変態みたいだ。
「……落としません」
「…うん」
 雲雀が高校を一般受験にしたのは、恋人が「どうせ推薦かコネなんでしょう?」と可愛くきょとんとしてみせたからだ。
 その彼女は責任もってしっかり胸を押さえてくれた。視線は少しだけさまよわせたらもうノートに戻した。
 あのペンみたいに彼女の胸、いや胸でなく、合格ラインに引っ掛かりたい。出来るなら安全圏にがっちり挟まりたい。

 ああでも、と雲雀は思った。
 この頬の熱じゃしばらく集中なんて無理だ。


091112