透明(銀魂・銀土)
ある日のことでした。俺は透明になりました。
呼び掛けても誰も返事をしないから、おそらく声も聞こえていないのでしょう。
だから今なら何をしても許されるんじゃないかと思ってみんなの日常を覗いてみることにしました。
俺のいない一日目に、彼はどこかでフラフラしているに違いないと決め付けて、文句を言いながら寺門通のコンサートに出掛けていきました。
俺のいない二日目に、彼女は酢昆布を買う金がないと文句を言いながら、定春と遊んでいました。
俺のいない三日目に、彼女は折角卵焼きを焼いて来たのにと淋しそうな目をして帰っていきました。
――透明――
そうして一週間目に、俺は透明になってから初めて彼を見ました。
彼は俺はいないのかと彼らに聞きました。彼らはわかりませんと答えました。
彼は舌打ちをして歩き出しました。だから、俺は後をついていきました。
「俺に何の用だったの?」
聞いてみたけれど当然返事はありません。
この時初めて、俺は寂しいと思いました。
彼は苛立った様子でどんどん歩いていきます。背中を追っている最中に俺は、どうしてか彼が泣いているんじゃないかと思いました。
衝動のままに彼を追い抜いて、正面から顔を覗き込みました。泣いてはいなかったけれどやはり泣き出す寸前のようにも見えました。
そういえば、彼とこんなにも顔をあわせないのは久し振りのことでした。いつだって互いに嫌な顔をしながらも偶然どこかで出会うのです。
だから、彼は俺を見に来たのかもしれません。
俺は彼のことを気に食わないように思っていたし彼だって俺のことをそんな風に思っていたと思います。でも、どうしてでしょうか。俺は彼と話すことが出来ないのを寂しいと思うし、彼も俺と会えないことを寂しいと思っているような気がするのです。
(……もし、戻るなら)
魔法は口づけで解けるのだと、よく昔話では言われます。
俺は泣き出しそうな彼を慰めるように、そっと唇を重ねました。
(1、2、3)
三つゆっくり数えると、俺は彼から離れました。
けれど彼に俺が見えた様子はありません。
当然だと思ったけどなんだか俺の方が泣きたくなりました。明日も明後日もずっとこんな風に感知してもらえないのだと思うと寂しくて寂しくて涙が溢れそうになるのです。
「ひじかた」
涙と共に彼の名前を呼びました。
「………さか、た?」
彼の大きく開かれた目に泣いている俺がうつりました。
いつの間にか俺の姿は透明ではなくなり、彼には俺の姿が見えていたのです。
俺は泣きながら彼を抱きしめました。彼もまた戸惑いながら俺を抱きしめました。
―END―
くっついたのかくっついていないのか何ともわかりづらい気がします。
透明と言えば透明人間。銀さんが土方さんの裸を見るストーカーな話にしようと思った筈なのですがどこをどう間違ったのかこうなりました。