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龍使い

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「初めまして」

幼い笑顔を浮かべながら差し出された小さな小さな紅葉の手。
あぁ、この人間がこれから俺が一生使える主なのかと、誰に教えられるわけでもなく理解した。
黒龍はその赤い瞳をすがめて、その子供の前に膝を折った。


竜ヶ峰家。この世界で龍を支配し、操れる龍使いの一族。
その長兄にして、跡取りの竜ヶ峰帝人は1人、深い深い岩谷の入り口に立っていた。

「臨也さん」

帝人は空を見つめながら、何かの名前を呼ぶ。もう一度、帝人はその名前を呟いた。
すると、翼を翻す音と共に、大きな影が帝人を刺す。

『グルル・・・』

天より舞い降りたのは、漆黒の鱗に身体を覆われた赤い瞳の黒龍。
黒龍はその赤い瞳を帝人に合わせると、自ら顔を帝人に近づけた。帝人の髪が、龍の吐息でなびく。
帝人はふわりと笑うと、その強大な龍の鼻先を撫でてやった。

「臨也さん、臨也さん、こんにちわ」

黒龍はどこか幸せそうに数度瞬きをすると、その赤い瞳を瞼の裏に隠してしまう。
帝人はそんな黒龍に微笑み返すと、今日自分に起きたことを話し出した。
学校であった友達との話、授業の内容、下校途中に見た他校の生徒。本当にたわいもない話。
けれど、そんな帝人の日常をこの黒龍は聞きたがった。

「で、正臣がその彼女のこと口説き出しちゃって。その彼女もまんざらじゃないとか言い出して。
 まったく!彼氏らしい人に追いかけられちゃいましたよ」

くすくす笑って話し終わると、黒龍はそっとその瞼を開けた。

『彼は相も変わらずだねぇ。俺の帝人くんを困らせないで欲しいな』

黒龍の言葉は脳裏に響く。龍は本来人語を話せない。唯一聞き取れる人間が龍使いになれるのだ。
竜ヶ峰家の人間は代々その『聞く』力が備わっていた。
そして、帝人はその力が歴代の中でも特に強いと言われている。

「明日の学校・・・どうなってるかちょっぴり心配です」

肩を落とす仕草をした帝人に、黒龍は喉で笑うような音を出した。

『くっくっ。もし心配なら俺を呼べばいい。いつでも必ず、俺は君の前に現れる』

「いやいや・・・臨也さんを呼んじゃったら僕、未成年の龍召喚で少年院行きですって」

『なんとかなるんじゃない?君、竜ヶ峰の人間だし』

「さすがにそこまで家の力、使っちゃだめですよ」

苦笑を漏らす帝人に、黒龍はそう?とだけ呟いた。
この国では龍を召喚できるのは龍使いのみ。そして龍使いは国家試験に受かった者だけに与えられる称号だった。
まだ未成年の帝人にはその国家試験を受ける資格がない。

『俺的には早く帝人くんが龍使いになってくれないと。ずっと一緒にいられないじゃない?』

「えぇ。僕も臨也さんと一緒にいたいです。それに、臨也さんの人形も見てみたいし」

『ふふ。きっとかっこいいと思うよ』

「でしょうねー。だって龍の姿でも他の龍達より断然質が良いですから」

龍使いに召喚された龍はその姿を本来の姿か、人形か、龍使いによるのだが変えることが出来る。
帝人はきっと臨也ならとてもかっこいい姿になるではないかと思っていた。
龍の中でも質の良い艶のある鱗に、紅玉の瞳。鬣はさらさらと風に靡く黒絹のよう。

「早く二十歳になりたいです」

『その時はデートしようか、帝人くん』

黒龍が茶化して言うので、一瞬帝人は彼が何を言ったのか理解できなかった。

「え?ふふ!デートですか、良いですよ。人間社会を案内してあげます」

臨也と自分の住んでいる世界を歩くのも悪くない。
きっとこの黒龍は色々な知識をすぐさま吸収して己のモノにしてしまうのだろう。

(きっとすぐに人間のルールを覚えちゃうんだろうなぁ)

それが若干もの寂しい気もするけれど、やはり己のパートナーである龍と共に歩いている龍使いを見る度に、
うらやましがることがなくなるかと思うと、それで良いのだとも思える。

『うん、約束』

嬉しそうに言葉を弾ませる黒龍に帝人はまた笑みを浮かべた。

「はい。約束ですよ臨也さん」




作品名:龍使い 作家名:霜月(しー)