ぼくがなにものであったならば。
確かにぼくは、自分のことばかりで周りが見えなくなる質ですがそれでも、気付かないわけないんです。
彼は、ぼくよりも長く生きている分、隠すのが上手です。
ですが、ぼくはこれまで隠し事のうまい大人たちから、目的の物を得るために探って生きていました。
だから、あんまり上手に隠されてしまうと逆に気付いてしまうのです。
彼の異変に気付いた時に、ただの一度だけですがぼくは彼に尋ねました。
そしたら、彼は「大丈夫だって、なんでもない」と、そう言ったのです。
訝しむぼくに、「信じろ」って、そう言ったのです。
「信じる」というのは、ぼくらにとって、いえ、ぼくばかりがそうなのかもしれませんが、随分と重たい言葉です。
彼が「信じろ」と言うのならば、ぼくは彼を信じないわけにはいかないのです。
ぼくは、かつて彼を信じ損ねて大変な思いをしました。
大変と言うのは少しおかしいかもしれません。
ただ、ひどく傷付いただけなので。
とにもかくにも、彼はぼくに「信じろ」と言ったのです。
ですから、ぼくはもうそれ以上、きけなくて口を噤んでしまったのです。
そうして、ぼくは待つことにしました。
彼が話してくれるのを。
彼の問題を話してくれるのを。
ぼくは、彼のバディだったので、きっと話してくれるだろうと信じて待つことにしたのです。
ぼくが抱えていた問題について話すことを、彼はぼくが話すまで待っていてくれました。
ぼくは、それがとても嬉しかったのです。
だから、ぼくも彼とおなじように彼を待とうと考えたのです。
ですが、彼は話してはくれませんでした。
ぼくが、彼よりも年下だからいけなかったでしょうか。
たった、1年ぽっちでは彼の信頼を得るには不十分だったのでしょうか。
たとえばぼくが、彼の親友であったらならば
たとえばぼくが、彼の親であったならば
たとえばぼくが、彼の子であったならば
たとえばぼくが、彼の妻であったらなば
たとえば、たとえばーーー
ぼくが何であれば、彼はぼくに話してくれたのでしょうか
ぼくは待ってはいけなかったのでしょうか。
彼のように、話してくれるのを待ってはならなかったのでしょうか。
ぼくが子供だったから、彼はぼくが話すのを待ってくれたのでしょうか。
ぼくが子供だったから、ぼくは待たれたことが嬉しかったのでしょうか。
ぼくは時々思います。
殴ってでも聞けばよかった。
end
作品名:ぼくがなにものであったならば。 作家名:Shina(科水でした)