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青エク ゆきりん 陥落

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兄が朝起きるまでのわずかの時間は、とても貴重な時間だ。シッポを隠していない兄が、ごろりとベッドに転がっている。

真実の姿を知っているのは、僅かのモノだけで、

無防備に、その姿を晒して安眠している兄を拝めるのは、僕だけで・・・・

兄弟なのに違う性質で・・・・

そして僕は、いつも兄には勝てない気がして・・・・

 その寝顔を見て、いつも考える。今なら、父さんを殺した兄を消せるだけの力はあるのに。

 それでも消せるわけはない。だって兄弟なのだから。あちらに兄が行くと言ったら、その時は引き金を弾かなくてはならないのかもしれない。弾いたら後悔すること請け合いだ。兄だって、僕に殺されるなんて思ってもいないだろう。きっと、驚きに目を見張って事切れるはずだ。



 そんなことはしたくない。



 兄は無謀にも父さんと同じものになると豪語する。他のモノは、みな、有り得ないと笑い飛ばすが、僕だけは笑えない。兄は父さんと似ている。とても優しいのだ。自分の周りにあるものを守るためなら、容赦なく戦える。強い人だ。僕にはないものを持っているので、いつも羨ましく思う。社会不適合者な兄なのに、マトモな僕にはないものがたくさんある。それは勉強でも修行でも獲得できるものではない。兄が生来から持っているものだ。それに惹かれることは止められない。



 ただ

 ただ、僕は

 その兄に兄弟としてではない想いを抱いている。



・・・・なんてことだろう。これが知れたら、僕は悪魔に堕落させられた人間だと謗られるんだろうな。・・・・・・



 兄が僕だけを見てくれる時間が欲しい。

 兄が僕を抱き締めてくれる時間が欲しい。

 兄が僕だけのものになってくれる時間が欲しい。



 そんな想いを篭めて、兄の寝姿を眺めている。そっと頬に触れて、触れるか触れないかのキスをする。兄は人の機微なんてものに鈍感なので、弟の僕が想っていることなんて気付きはしない。熟睡しているので、触れても起きることもない。頬から首筋に手を這わせて、鎖骨まで辿る。そこから背中に手を這わせ、ゆっくりとお尻まで撫でていく。それでも起きることはない。硬いお尻の辺りをゆっくりと撫で触り、耳元に聞こえないような小さな声で囁く。

「ねぇ、兄さん。僕が兄さんを僕のものにしたら、僕はなんと言われるんだろうね? 兄さんのここで、僕を受け入れて、僕が毎日、ここを突いたら・・・・兄さんは、それに溺れて、僕のものになってくれる? 」

 呪文のように毎日、囁いて、そこを撫でる。兄は相変わらず、暢気な寝顔を晒しているので、安堵しつつ起き上がる。僕の身体を鎮めて着替えをすると、本格的に兄を揺すり起こす。

「兄さん、兄さん、起きて。遅刻するよ。」

「・・・・ふぁ~・・・ねみぃー・・・」

「おはよう、兄さん。早く支度して。」

 ふぁーと大あくびをしつつ兄は洗面所へ走り出す。毎日の儀式のように、いつまで、この儀式のような朝は続くだろう。

いつか、僕は悪魔を陥落させるかもしれない。

少し、それが楽しみなことになりつつある。

作品名:青エク ゆきりん 陥落 作家名:篠義