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日向 悠一郎
日向 悠一郎
novelistID. 25827
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すれ違うココロ

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五月、
春も終わりを告げだんだんと暑さが増していく・・・

二階の自分の部屋、
窓辺に立つ水谷の首をヒョオっと風が撫でる。



「みーずったにぃ!!」

聞き覚えのある声に下を見ると、溢れんばかりの笑顔で手を振る栄口の姿。
いつも見ているユニフォームや制服じゃなく私服の栄口・・・
オレにだけ向けてくれる笑顔はすごく愛しくってギュってしたくなる。
一番大事なチームメイト・・・・・・



今日は休日、栄口が初めてオレのうちにお泊りに来る日だ。


「栄口~、鍵開いてるから勝手に入って」
「ん、わかった!」
同じように手を振り返し、栄口が玄関のドアに触れるのを見たオレは視線を外から部屋の中にもどす。
――・・・汚れてないよね?きれい・・・までとはいかないけど、だ・・・大丈夫。
部屋の中は昨日から何度も確認している。床にぐちゃぐちゃに置いてあったCDも机に積んでおいた。

「栄口いらっしゃ~い!」
部屋の扉がノックされると同時にオレは戸をあけていた。
「お、おじゃまします」
律儀にお辞儀をしながら栄口は入ってきた。
――お邪魔なんかじゃないのにっ!!

なんてことを考えてニコニコとしていたら
「何ニヤけてんの?」って言われちゃった!!
「べっ・・・別にっ」
慌てて取り繕うようにオレは手をブンブン振った。

「ホントによかったの?」
ベッドの上に座った栄口がオレに声をかけた。
「ん?何が?」
「・・・今日泊まって」
少し躊躇ってから答える栄口
「あぁ、その事か!うん、全然大丈夫だよ。今日は親は親戚ン所だし姉貴は友達の所に泊まってるからゆっくりしていいからね」
「いや、そうゆぅことじゃ・・・・・・」
「え?」
「ううん、なんでもない」
フルフルと首を振る栄口
――可愛いなぁ・・・

そっから二人で一緒にご飯を食べて((もちろん二人で作りました!!))お風呂に入って、パジャマに着替えてからオレたちはまた部屋に戻った。

「ねぇ、どのビデオ見る?」
栄口は持ってきたボストンバッグの中から4・5本のビデオを取り出し、部屋の真ん中においてある小さなテーブルに並べだした。
「ん~・・・栄口が好きなのでいいー」
「なんでだよ、水谷が選んでよ」
「だって俺は栄口と見れるなら何でもいいんだもん」
オレは口を尖らせビデオの置かれたテーブルに顎を載せる。
そしたら栄口にデコピンされた。
「いったぁ・・・もー、なにすんだよぉ」
「水谷が悪いんだよバカッ・・・」

――な・・・そんなぁひどい・・・
本当の事を言っただけなのに馬鹿扱い。
――オレ泣いちゃうよ?

ショックを受けながらも栄口を見る、それに気がついた栄口はそっぽを向いてしまっていた。
――あれ?栄口、耳赤い・・・・・・もしかして――?

「照れてる?」
思わず出た一言に栄口は勢いよく振り返る
――わぉ、顔が真っ赤ですよ・・・
「栄口可愛い~」
オレって思ったことはすぐに言っちゃうんだよね、ダメって分かってても止められないんだよ。
だって正直者だもん♪


「水谷の馬鹿」
恨みがましくオレの顔を見た栄口はぼそっと呟いた。
――馬鹿って二回目ですよ?!
「何でッ?!ホントの事言っただけなのにっ」
慌てて言い繕うと栄口は小さくため息をついた。
「だから馬鹿なの、男が男に可愛いだなんて・・・」
「駄目なの?」
オレは栄口が言い終わる前に問い掛けた。
「オレは栄口が可愛いから可愛いって言っただけだよ?何でそれがダメなわけ?男は男に可愛いって言っちゃダメって決まってるの?」
「う・・・・・・それ卑怯だよ・・・」
つか、可愛いって連呼しないで・・・って小さな声で訴えかけてきた

――ダメ!ホント可愛いんですけどッ!!何?誘ってるワケ??


栄口があんまり可愛いことするんだもん、オレったら我慢が効かなくなっちゃった


「え、なっ何??」
「栄口・・・」
思わずギュッと抱きしめ耳元で名前を呼んだ。
そして驚いた風に見てくる栄口の唇に自分の唇を重ねた。
「みず・・・?!」
突然キスされたもんだから栄口は慌ててオレを押しもどそうとする。

――そんな事させないよ・・・

オレを押していた腕を掴むとそのまま栄口をベッド押し倒し、僅かに開いた唇から舌を滑り込ませる。
「ん・・・やぁッ」
口の中で舌を動かすたびに栄口が甘い声を上げる。
――ヤバイ、たまんない・・・
栄口の熱に、声に、頭がしびれてくるような感じがする。
「みっ・・・たに・・・・・・くるしっ」
喘ぎ声を漏らしながら栄口がオレの背中を叩いた。
「ごめんね」
唇を離すと同時に栄口がオレから離れる。

――あぁやっちゃった。流石に嫌われちゃったかな?

少しの間の沈黙、オレにはそれがひどく長く感じられた・・・
沈黙に耐え切れずオレが口を開こうとした時だった。
「今のドウユウ意味?」
怒っているのか俺に背中を向けたままで栄口が口を開いた。
「・・・・・・」
――ンな事聞かれても・・・言えないよ、好きだなんて
「単なる冗談?」
ゆっくりと言い放つ栄口の声は低く、肩も微かに震えていた。
――栄口、泣いてるの?そんなに嫌だった??
「ごめん」
オレが謝ると栄口が振り返った。
その目には今にも零れ落ちそうなくらい涙が溜まっていて、栄口は唇をキュッと噛んで必死にしゃくり上げるのを我慢していた。


「っ・・・・・・んで、あやま・・・だよっ・・・・・・」
訳が分からなくなった
なんで水谷は謝るのか、自分からしたくせにどうしてそんなつらそうな眼をするのか・・・
「ごめん」
また水谷が謝る。
青の意味が分からなくて、気が付いたらオレは声を上げていた。
「だからっ!なんで・・・なんで謝るんだよ!!・・・んで――」


キッとオレをにらんだかと思うと栄口は涙のたまった眼を隠すようにうつむいてしまう。
うつむく際に栄口は何かを呟いた
『なんでキスなんかしたんだよ』
そう聞こえた気がする。
――そんなの・・・好きだからだよ・・・・・・
栄口の問いに答えたい。
でも答えたところでオレたちは男同士だし
栄口はオレのことを友達としてしか見ていない
決して付き合えるわけじゃない
だから・・・
だからオレは今の関係を壊したくない・・・・・・
「・・・・・・」


水谷は口を噤んだまましゃべらない。
――なんで黙るの?今のキスはホントにジョーダンなの??
どれだけ待っても水谷はしゃべろうとしない。
「・・・もういい、帰る」
オレはそう言うやいなやテーブルに並べたビデオをかばんに直し部屋から出ようとした。
「待って!お願い帰らないで!!」
すがるような声で水谷が俺の服の裾をつかんだ。
「離して」
そんなことお構いなしにオレは水谷の手を振りほどきドアを開けた。
「やだやだ!ごめんなさい!!もうしませんからぁ~」
――プチッ
オレの中で何かが切れた音がした(気がする)
「だからオレはなんで謝っているのか聞いてんだよ!!何度も同じこと言わせるな馬鹿っ!!」
イライラしていたのか、オレは力任せに水谷の部屋の扉を閉めると逃げるように家から出た。


バタンッという音とともに階段を駆け下り、少しして玄関の戸が閉まる音が聞こえた。
「・・・・・・ふぇ・・・」
作品名:すれ違うココロ 作家名:日向 悠一郎