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アイカギ

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村越の唇がこめかみに触れる。
これにいつも時間のずれがあまりないからタツミは5時前後だというのが判るようになった。
一度帰って9時前に今度はグラウンドに村越は来る。こっちも監督になってそこへ。
練習後も村越は帰るから、1日に3回くらいも来ていることになる日があってなかなかすごい。
遠ざかるエグゾーストノイズを聞きながらもう少し寝るのがタツミは好きになっている。



すっかりビジネススーツが似合うようになったゴトーとくたくたの寝姿―――Tシャツにハーパンで朝のアイサツ。
カレの顔を普通に見られる自分は、もうそんなことを気にするのを日本を離れるときに止めていたと思う。
「おはようたつみさん。タマゴサンドでイイ?飲み物はある?」
有里の声と感情はいつだって気持ちがいい。
「おはよ有里。タマゴサンドにはナスタチュームいっぱい入れて」
「え?そんなの無いよ?本当に欲しいの?」
買うところかなと有里が財布を掴んで出ようとする。もー時間無いのに!と言いながら。
「いいから有里ちゃん。マスタード大目に入れて作ってくれるか」
「それでイイの?すぐ買ってくるよ」
「いいから」
ゴトーのフォローが聞こえなくなるまで歩いてから、タオル無しでシャワーを使いに歩いているのに気づく。



失えないのはゴトーであって村越ではない。



事がばれたらゴトーの責任になる。監督はとばせるけれど選手はそうはいかない。まして村越なら。
「タツミ。タオル持たないで行く気か」
部屋から取ってきてくれた。
そして何も言わずに。態度も全部。
「さんきゅー」
このオトコがくれたものとか、用意してくれた未来とか。
このクラブを去るのは初めてではないというのと、2度去るのかという思い。自分はいつだってまた全部滑り落とせる。
次はゴトーも、自分を探さないだろう―――ならまた誰か誑し込めばいい。イングランドで簡単に出来たように。
でも今度ここから離れるならゴトーに話してから。


自分はゴトーと居たいのだというのを伝えてから。


ずっと、そうだったとかを。








2人で肩書きを留まる理由にしていて、でもゴトーのほうが逃げていないからタツミはもう少しだけ甘えようとする。
作品名:アイカギ 作家名:るか