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Birthday present

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「なぁネズミ」
「ん?」
「今日の夜は荒れそうだ」
「あんたの話はいつも唐突だな」

西ブロックにある小さな部屋。紫苑とネズミはそこにいた。
部屋は地下にあり、当然空など見えなかった。

「さっきイヌカシの所へ行って来たんだ。帰りに空を見上げたら、すごく暗かった」
「俺もさっきまで外にいたんだ。知ってる」
「そうだけど……」
ネズミが軽く受け流すと、紫苑は言葉を詰まらせた。
紫苑のもとから子ネズミが走り、ネズミの足元でチチッと鳴く。
「はぁ……」
ネズミは深くため息をついた。そして大きく息を吸った。
「……で?」
「えっ?」
「まさか、あんたは時候の挨拶がしたかっただけなのか? それとも天気予報士にでもなりたいの?」
笑みを浮かべながら皮肉を並べるネズミ。これがネズミなりの会話の距離だと、紫苑は知っていた。紫苑は柔らかく笑ってネズミに答えた。
「雨が強かったり、風が強く吹いたり……そういう日は、必ず思い出すんだ」
「外に出て叫んでみるか? 残念ながらこの部屋にベランダはないけどな」
ネズミはさらに笑う。その声を紫苑の冷静な声が遮った。
「もう叫ぶ必要はない」
「ほう」
「僕はあの日、あの台風が誕生日プレゼントだと思っていたんだ。でも違った」
「ちょっと待って。さっきも言ったけど紫苑、あんたの話は唐突過ぎて」
「きっと君がプレゼントだったんだ」
4年前と同じ、あどけない笑顔で紫苑は言った。

数秒間の沈黙。

チチチッ。
ネズミの足元で再び鳴き声が聞こえる。
「それ、本気で言ってるのか?」
子ネズミを手で拾い上げながらネズミが言う。
「相当恥ずかしいぜ?」
「そう? 僕の誕生日に君と出会って、それが繋がって今僕はここに居る。そのおかげで、No.6にいては知る由もない事を知ることができる。最高のプレゼントだろ」
ネズミの手から子ネズミが走り去る。
「……たしかにな」
「ネズミ? 何か怒ってる?」
「いいや」
「嘘だ」
「嘘だと思うなら最初から聞くな」
ネズミは立ち上がりシャワー室へ向かおうとした。

「ネズミ。僕は君に何ができるだろう」
紫苑の言葉に、ネズミは背を向けたまま立ち止まる。
「なにも」
「誕生日プレゼントくらい渡させろよ」
「俺の誕生日も知らないのに?」
ネズミがターンし、紫苑に向き直る。
「教えてくれればいい」
「俺だって知らない」
「なら作ればいい」
「『二人が出会ったあの日を誕生日に!』なんてベタで安っぽい台詞、言わないよな?」
「そんなこと!……あ」
反論しようとした紫苑だが、すぐに言い淀んでしまった。
その様子にネズミは大きく笑う。
「はははっ! 図星か?」
「いや、違うんだ……」
笑われたことに何の反論もせず目を伏せた紫苑を見て、ネズミはきょとんとした。
「僕は『僕の誕生日をネズミの誕生日に』って言おうと思ったんだ。でもそれって、君が言ったのと結局同じ日だな、って」
「……」
「誕生日が同じなら、一緒に年を重ねて、一緒に成長して……生きていく速度が一緒になるだろ? これは僕の勝手な願望かもしれないけど、でも……」
「……ふっ」
「ネズミ?」
「ははははははっ!!」
ネズミは腹を抱えて笑いだした。
「あんたは本当にわからない」
「どういうこと、ネズミ?」
「わからないんだ、説明できるわけないだろう」
「そんな屁理屈を聞きたいわけじゃない!」
ひとしきり笑ったあと、ネズミはゆっくり呼吸を整えた。
「紫苑。あんたからもらえるプレゼントは、その天然っぷりだけだよ」
「本当に失礼な奴だな」
「失礼? あんたがいつも知りたがっている“真実”ってやつだけど?」
「その言い方が失礼だって言ってるんだ」
わけもわからず大笑いされた紫苑は、ふてくされながら言い返す。
「でも……そうだな」
ネズミが何か思いついたようにつぶやく。
「笑わせてもらったお礼だ。プレゼント、受け取ってやるよ」
「持ち前の天然さ以外、何もあげられるものはないけど」
「悪かった、悪かったって」
子どものようにすねる紫苑を見て、ネズミはまた笑う。
「あんたから“誕生日”をもらうよ」
「どういうこと?」
「俺の誕生日。あんたの言った通りにしよう。俺の誕生日は紫苑の誕生日と同じ日だ」
紫苑の真っ直ぐな視線に耐えきれずに、ネズミは少し視線をそらした。
「忘れないからな」
紫苑の言葉に、ネズミは再び視線を合わせた。
「プレゼントを受け取るってことは、思いもひっくるめてってことだ」
「……」

――生きていく速度が一緒になるだろ?

「生きるんだ、二人で」
強い意志のこもった言葉を聞き終えると、ネズミは立ち上がった。
「あぁ」
短く答えて、シャワー室へ消えて行った。
作品名:Birthday present 作家名:リクノ