えすぴー 仕返し
「・・・・おまえに殺されたかったんだがな。」
で、その相手が残念そうに、そんなことを呟きやがるので、もっとがっくりした。殺さず確保が基本だろーがっっ、と、怒鳴りたいところだ。なんせ、それを教えたのは、今、応急処置している相手なのだ。
「イヤです。」
「止めてくれるなら、おまえだと思ってた。」
「もちろん止めますよ。でも、殺すつもりはありませんでした。」
「せっかく全弾撃ち込んでやったのに、それでも怒りにならないか? 」
「・・・・・外して撃ったクセに・・・何を・・・」
地下での攻防戦は、どちらも傷つけないようにしていた。だいたい、あの至近距離で撃って当たらないのはおかしいだろう。
「おまえに怪我をさせたくなくてな。痛いだろ? 」
「それなら止めてくれればよかったんだ。」
「だから、殺して止めればよかったんだ。・・・・それに、手錠を忘れていて逮捕もしてくれないし、つれないにも程があるぞ? 井上。」
「意味がわかりません。」
「俺は、もう、おまえの傍にはいられないのに・・・今度から誰に手錠を借りるつもりだ? もう忘れるなよ? 」
「いられなくなったのは自業自得です。」
ぎゅっと止血して、意味のわからないことを言う上司の顔を見た。この期に及んで笑っているので、狂ったか? と、思った。すると、視線が合って、ちょいちょいと左手で呼び寄せられる。何か聞かれたくないことでもあるのか? と、顔を寄せたら、がばっと左手で後ろ頭をホールドされて、チュッと音をさせてキスをした。
「・・・・・・・・・」
「行きがけの駄賃ぐらいは貰わないとな。」
まあ、いろいろと言い寄られていたので、そういうこともしたいのだろう。この人は、本当におかしな人だ、と、井上は、自分からキスを返した。
「これぐらいなら差し上げますよ、尾形さん。」
さすがに、上司も目を大きく見開いた。最後の最後くらい仕返ししてやってもいいだろう。
「・・・大胆だな? 井上。それは、相思相愛だということか? 」
「はあ? ・・・・・頭冷やしてください。ほら、起きてください。」
「麻生のヤツ、俺たちの愛の確認を盗み見ていたな? やはり殺すか? 」
少し離れたところで、こちらを見ている現首相を睨みつつ、尾形は起き上がる。いや、そうじゃなくて・・・てか、殺すって言うな、と、井上はコメカミに手を置く。別の意味で頭が痛い。この上司、本当にどっかネジが抜けているのではないだろうか。
「愛してるぞ、井上。」
「・・・・・・はいはい。」
「面会に来てくれるか? 」
「無理です。」
「残念だ。せっかく思いが通じたのに。」
「通じてません。」
精神鑑定をしてください、この上司、どっか壊れてます、と、叫びたいところだが、晴れ晴れとした顔をしている上司に、なぜか叫べなかった。