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えすぴー 仕返し

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長い一日だなあ、と、井上は応急処置をしながら考えていた。止血している相手が引き起こした騒ぎで、長い一日は始まった。そして、夕焼けの頃に、ようやく終結しそうだ。上空には、ヘリが飛びまわり、周囲からの騒がしい声も聞こえる。まだ終わりではない。この男を引き渡して、事情徴収を受けて、報告書を書いて、上層部へ呼び出されて事情説明させられて・・・・考えるだけで、溜息が出る。

「・・・・おまえに殺されたかったんだがな。」

 で、その相手が残念そうに、そんなことを呟きやがるので、もっとがっくりした。殺さず確保が基本だろーがっっ、と、怒鳴りたいところだ。なんせ、それを教えたのは、今、応急処置している相手なのだ。

「イヤです。」

「止めてくれるなら、おまえだと思ってた。」

「もちろん止めますよ。でも、殺すつもりはありませんでした。」

「せっかく全弾撃ち込んでやったのに、それでも怒りにならないか? 」

「・・・・・外して撃ったクセに・・・何を・・・」

 地下での攻防戦は、どちらも傷つけないようにしていた。だいたい、あの至近距離で撃って当たらないのはおかしいだろう。

「おまえに怪我をさせたくなくてな。痛いだろ? 」

「それなら止めてくれればよかったんだ。」

「だから、殺して止めればよかったんだ。・・・・それに、手錠を忘れていて逮捕もしてくれないし、つれないにも程があるぞ? 井上。」

「意味がわかりません。」

「俺は、もう、おまえの傍にはいられないのに・・・今度から誰に手錠を借りるつもりだ? もう忘れるなよ? 」

「いられなくなったのは自業自得です。」

 ぎゅっと止血して、意味のわからないことを言う上司の顔を見た。この期に及んで笑っているので、狂ったか? と、思った。すると、視線が合って、ちょいちょいと左手で呼び寄せられる。何か聞かれたくないことでもあるのか? と、顔を寄せたら、がばっと左手で後ろ頭をホールドされて、チュッと音をさせてキスをした。

「・・・・・・・・・」

「行きがけの駄賃ぐらいは貰わないとな。」

 まあ、いろいろと言い寄られていたので、そういうこともしたいのだろう。この人は、本当におかしな人だ、と、井上は、自分からキスを返した。

「これぐらいなら差し上げますよ、尾形さん。」

 さすがに、上司も目を大きく見開いた。最後の最後くらい仕返ししてやってもいいだろう。

「・・・大胆だな? 井上。それは、相思相愛だということか? 」

「はあ? ・・・・・頭冷やしてください。ほら、起きてください。」

「麻生のヤツ、俺たちの愛の確認を盗み見ていたな? やはり殺すか? 」

 少し離れたところで、こちらを見ている現首相を睨みつつ、尾形は起き上がる。いや、そうじゃなくて・・・てか、殺すって言うな、と、井上はコメカミに手を置く。別の意味で頭が痛い。この上司、本当にどっかネジが抜けているのではないだろうか。

「愛してるぞ、井上。」

「・・・・・・はいはい。」

「面会に来てくれるか? 」

「無理です。」

「残念だ。せっかく思いが通じたのに。」

「通じてません。」

 精神鑑定をしてください、この上司、どっか壊れてます、と、叫びたいところだが、晴れ晴れとした顔をしている上司に、なぜか叫べなかった。
作品名:えすぴー 仕返し 作家名:篠義