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【デリ帝】His word is low【サンプル】

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 思い浮かぶ画像は、いつだって清らかで、愛おしく。記憶の中にある自分を呼ぶ音声は、心を喜びに震わせる。

「……起きて下さい」

 心地の良い声に呼びかけられて、休止状態だったシズオの意識がふっと浮上した。
 暗闇から抜け出すと、光がハレーションを起こしたみたいに、一面、真っ白な世界だった。その白く霞んだシズオの視界の中にうすぼんやりと影がさした。見えなくても、それが誰の作った影なのか分かる。
 眠りに落ちたシズオを呼び起こせる存在なんか、この世界に一人しかいない。

「おはようございます、シズオさん」

 にこり、と微笑む帝人の顔を認識した瞬間、シズオの中にどす黒い感情が姿を現した。
 シズオは帝人に作られた電脳世界でのみ生きる存在だ。モデルとなった人間に近づけるため性格などのある程度の初期設定が書き込まれただけで、あとは自身で考えて動くことのできる自立型プログラム。それがシズオだ。
 本来なら自分の創造者である帝人は、シズオにとって絶対的な存在のはずなのに、彼を目の前にすると無性に苛立ちが募る。

「俺の前に姿見せんなって言ってんだろっ!!今すぐ消えろ!」

 気分が悪くて、悪くて、言葉と共に吐きそうになるくらい。

「殺されてえのかっ?!」

 怒鳴られても困った顔をしてそこから一歩も動こうとしない帝人の姿にかっとなったシズオは、その胸倉をつかみ上げて、思い切り後ろに突き飛ばした。
 仮にも自分を作った主人だというのに、シズオは彼のことが憎くて、憎くて、仕方が無かった。シズオがオリジナルと同じくらいの衝動と破壊的な力を持っていたら、とっくに彼は死んでいただろう。
 相手が立ち去らないなら自分がそこから動くだけだ。用事があるのなら命令文だけで事足りる。わざわざシズオの下へ直接、訪れる必要なんてないのだ。

「また今日もやってるの?懲りないねえ、マスターは」

 いつの間にかイザヤがシズオの後ろからついて来ていた。

「……あん?何、言ってやがる?」
「君のそういうとこ、本当にオリジナルにそっくりだよねえ」

 そういうとことはどういうところなのか。聞き返すと、イザヤは深く刻まれたシズオの眉間を指差した。そう言って笑うイザヤも彼のオリジナルそっくりに笑うのだ。

「うるせえ……」

 オリジナルたちは犬猿の仲であるというのに、シズオはイザヤを嫌悪する気持ちを持たなかった。二人がそこそこうまくやれているのは、自分たちが所詮は原形を模しただけの複製品だという認識があるからだ。自分たちはオリジナルとは違うと理解しているからだ。
 イザヤはいつだってマイペースだ。シズオが不機嫌だろうが近寄って来る。手で追い払っても、そこから動こうとせず、シズオが歩けば後ろをねえねえと言いながら後を追ってくる。
 そのこと自体はうざったいが、嫌悪するほどじゃない。やはり、そういうところも自分たちとオリジナルはずいぶん隔たりがあった。
 ただ、そうはあっても、今はイザヤの相手をする気分にもならなくて、シズオはイザヤもついてこれない領域に姿を消すことにした。