If Story
ざわざわと体育館いっぱいに、喧騒がこだましてる。
当然だと思う。
教師がどんなに日頃から煩く言おうとも集会とか開いても、生活態度なんて改める奴は相当稀だ。
そんな無駄な時間を使うくらいなら、いっそ自由時間でも良いはずだ。
イライラする。
ぺし、
何か冷たいものが、腿に当たって肩が跳ねた。
目線をおろせば、黒く薄いファイルを持っている筋ばった手が見えた。
「こら、そんなにスカート捲くっちゃダメですよ?」
と、耳元から心地よい低音で窘められた。
「だ、れだ?」
聞き覚えがない声だったので、問いかける。
「教師にタメ口ですか?」
うっそ、こんな声一度聴いたら忘れられるわけがない。
「あー、では今年から生徒指導担当になる先生の紹介をするアル。本田先生、壇上に―――」
「ああ、それではまた後で・・・」
背後にいた男は、そういい残し急ぎ足で校長の立っている壇上に移動していくのが気配で判る。
横目に、黒い髪がさらさらと揺れるのが見えた。
「今年から、生徒指導を一任される事になりました本田菊です。よろしくお願いします。」
さきほどまで、俺の耳元で話していた声がマイクで体育館いっぱいに響き渡る。
一瞬の沈黙と、大きな拍手が沸き起こる。
本田が壇上に上がったことで、なかなか整った顔が見えた事も災いしているのだろう。
世間で言う、美形の腐れ縁(決して、口に出しはしないが)を幼馴染に持つ俺はそう思った。
本田は、綺麗に一礼して壇上を降りた。
と、同時に校長の、紹介が入る。
「本田先生は、今まで中等部を担任していたアル、だからあまり馴染みはないかもしれないアルが基本いい先生だから言う事をよく聞くアルよ。」
校長がここまで褒めるのって相当稀だなぁ。
面白そうな奴、
「先生、セクハラで訴えますよ?」
「んー、カークランドさんがスカート改造しちゃったのが悪いんですから諦めなさい。」
そういいながら、本田はカークランドのスカートを少しでも長くしようと裾を引っ張る。
「ちょっと、・・・ソレわざとですか?」
「何がですか?」
「太もも、さりげなく撫でてるでしょ?」
「あら、気付かれてしまいましたか」
「って、いうことも有り得たんじゃないか?先生」
「そうですね、アーサーさんが女の子だったらっていう話ですね。ああ想像だけでもこんなに可愛らしいのですからきっと実物は・・・嘘です。ほら、泣かないでください。」
「だって、」
「最初に言い出したのはアーサーさんです。」
「そりゃそうだけど・・・」
「こら、いいわけしない。」
結局のところ、私たちは教師と生徒という許されない道を進むのだ。
男にしろ、女にしろ。
つまり、IFは考えるだけ無駄なのだろう。