青エク集
奔放(勝燐もしくは燐勝)
「なあ、ここはどうなるんだ?」
休み時間になったときに聖書の教典を持って、燐がまた質問しにきた。
こいつはなんでこうも無邪気というか人懐こいというか・・・勝呂は何も知らない事よりも、そちらに対して、呆れたように思った。
「なんや、お前、あいかわらずこんな事も分からんのか。」
呆れつつも、勝呂は本を机の上に置き、ここがこうだから、とペンで指示しながら説明した。
ふんふん、と燐の声がする。
「お前、ちゃんと分かっとんねやろな?」
聞き流してるのでは?と思い、そう言いつつ、ふいに頭を上げた。
「って、ちょっ。ち、近い!!」
「うわ!?何すんだよ!!」
上げたそこに燐の顔があった。
目の前に燐のどアップ。
勝呂はあわてたように言い、グイ、と燐の顔を向こうに押す。
「やかましっ、お前、もうちょっと距離とか考えんかい。」
「は?なんで?」
「なんでもくそもあるか。」
「別にいいだろ?男同士なんだしさ。」
「お、男同士やから余計気持ち悪いわ!!」
「えー。ちぇ、なんだよ・・・。」
ぶつぶつ言いながらも、それでも「教えてくれてありがとうなー」と言いつつ、燐は自分の席に戻っていった。
まだ休み時間は終わっていないが、そのまま勝呂に教えてもらったところを読み直しているようだ。
「なあ、坊」
そんな燐を見ていたら、後ろからペンでつん、とつつかれた。
「なっ、なんや志摩。」
「フフフ、今の、相当あせっとったでしょ?」
振り返れば、ニヤニヤとしまりのない顔をした志摩が、机にのせた手を交差させて、その上に顎をのせて勝呂を見ていた。
「違っ」
「まぁまぁ、ええやないですか。俺かて、ああも顔、近付けられたら焦るし。」
「なっ、志摩、まさかお前も・・・」
「ん?俺も、何ですのん?」
さらにニヤニヤした志摩を見て、顔を赤くした勝呂は「うるさいわ」とつぶやくように言って顔を逸らす。
だが少し間を開けてから、またつぶやくように言った。
「あいつ・・・誰にでもああなんかな・・・?」
「んー・・・まぁそう、言うたらそうですけどね。でも・・・」
「でも、なんや?」
「ん?いや、何でもあらしませんよ?」
「・・・。」
勝呂は、相変わらずニヤニヤしてる志摩が気に障ったのでそのままこの話はやめる事にした。
無防備で人なつこい、燐。
いつの頃からか、勝呂はそんな燐を目で追っていた。
くるくる変わる表情とか、分かりやすい反応とか。
最初は気にくわなかった。
何をしに来てるんだ、とイラついた。
だが。
「サタンを倒すのはこの俺だ!!!!てめーはすっこんでろ!」
そう言ってのけた燐。
多分もう、あの時点ですでに・・・。
学校の授業が終わった後、勝呂は珍しく一人で教室でボーっとしていた。
今日は塾は休みだった。
「なぁ。」
ふいにその時、声が。
ハッとして前を見ると、また燐が間近にいた。
「!!」
「お前さー、なんでそんなにいつもイヤそうな顔すんだよ?」
「っは?」
あせって口をぱくぱくさせていると、顔を近づけたまま、燐が聞いてきた。
「だってさー、いつもなんかうわって顔、してんじゃん。」
「いや、今のは普通にびっくりしたんや!!なんやお前。このクラスちゃうやろ。」
「ん?だってさ、通りかかったら珍しく勝呂が一人で呆けてるからさー。」
「呆けてるとか言うなや!!つうか、顔が近い!!」
また燐の顔を押しのけようと手を伸ばすと、その手を燐がつかんだ。
「・・・なぁ?今気付いたんだけどさ?お前、顔、赤くねえ?」
「!!」
「なんで?なあ、なんで?」
相変わらず無邪気にそう聞いてはくるが、その燐の顔は無邪気とはほど遠かった。
うっすらと笑みすら浮かべて。
そう、妖艶と言っても過言じゃない。
これが、あの、燐、か・・・?
勝呂が唖然としていると、燐は自分の目の前にある、つかんだままの勝呂の掌をゆっくりとさらに自分に近づけ、そして舌を這わせた。
「っ!?」
「顔、ますます赤くなった・・・。」
「っおま・・・」
なんなんだ・・・?
こいつは、誰だ!?
「俺は燐だよ。奥村燐。それ以外の何物でもない。」
まるで勝呂の思考でも読みとったかのように、燐がそう囁く。
「だ、だがお前・・・」
「ん?ああ。だってさ。お前、カッコイイんだもん。俺のランキングの中では堂々の第2位。そんなお前がさ、最近、俺をよく見てただろ?気付いてんだぜ、俺。」
「!!」
「だからさーモーション、かけやすいようにちょくちょく近づいたってのにさ、お前、こっち系、全然なんだもん。」
・・・なんてゆうかどこに驚けばいいのか分からない。
勝呂は相変わらず赤い顔のまま、口をぱくぱくさせていた。
「だからさ、もう俺からいくしかねぇかなって。」
「っは!?」
おもわず声が裏返った。
「プッ。なんだよ。やっぱお前、こっち系はダメみたいだな、カッコイイのに。いいよ、俺けっこうそうゆうの襲うの、好きだし。」
「なっ、何言うてんね・・・」
言いかけたが続かなかった。
またもや勝呂の掌に舌をはわせた後、燐は妖艶に笑いつつ、勝呂の手をつかんだまま顔を近づけてきたからだ。
そのまま口をあわせてきた。
「!?」
しばらく存分に勝呂の唇を味わったあと、燐はチュク、と音をさせて口を離し、最後に勝呂の唇をそっと舐め上げた。
「ごちそー様。」
その一言でハッと我に返った勝呂は、「お前っ」と言いつつも椅子から立ち上がった。
「なんだよ。勝呂は、俺が、嫌い?」
燐はそんな勝呂に、コテンと首をかたむけつつ聞いてくる。
「は・・・い、いや、そうじゃのうて・・・」
「じゃあ、好きなんだな。」
ニヘっと、先ほどの妖艶な顔はどこへいったのか、満面の笑みを浮かべて燐は言った。
「いや、その・・・う・・・あ・・・」
勝呂はまた真っ赤になってどもりだした。
「おいおい、カッコイイのが台無しじゃんか。俺はさ、勝呂、好き。」
「!!」
燐はそのまま、勝呂の前の机の上に座って、首をかたむけたまま聞いてきた。
「勝呂は?俺の事、好き?」
「・・・・あ・・・・あぁ・・・」
真っ赤になってうつむきながら、勝呂はやっとそれだけ言った。
「マジかよ!!やった!!じゃあ、晴れて俺ら、恋人同士ってわけだ。」
それでも、ものすごく嬉しそうに、無邪気に燐は喜んだ。
だが・・・。
「ちょっ!?お前、何しとんねん!!」
無邪気そうな燐は机に座ったまま太ももで勝呂を挟んで、手を勝呂のズボンのベルトにかけているところであった。
「え?何って・・・ナニを・・・」
「はぁぁぁ!?お前、こんなとこで何言うとんねん!!やめえ!!」
怒ったように、でも赤くなりながら、あわてて燐を押しのける。
「えー。じゃあさ、俺んとこ、来る?今日は雪男、仕事で遅くなんだよ。ね?」
様子だけは可愛らしく、燐が言う。
あ、あかん、俺、つ、ついていかれへん・・・
勝呂は青くなったり赤くなったりしながら相変わらず口をパクパクさせて、顔だけは無邪気そうな燐を見ていた。
「んー・・・まぁそう、言うたらそうですけどね。でも・・・」
そんな志摩のセリフが脳をよぎりつつ。