青エク集
夏祭り(燐アマ)
「やあ奥村くん、いらっしゃい。」
「・・・なんの用なんだよ?」
メフィストに呼ばれた。
来てみれば、メフィストは見た記憶のあるトンガリに向かって輪投げを投げているところであった。
燐は少し引き気味に何の用かと聞きつつも、その見覚えのあるトンガリを見る。
「ああ、まあ遠慮せず、中へどうぞ。」
「いや・・・別に遠慮はしてねぇ・・・」
言いつつも、部屋の中に入る。
頭のトンガリにいくつもの輪をはめた、見覚えのあるソレは、微動だにせずに、なにか本を読んでいるようであったが、燐が近づくと顔をあげた。
「コンニチハ、お久しぶりです、奥村燐。」
「っ!!やっぱり!!なんでコイツがここにいるんだよ!?」
「遊びに来ました。」
「って、また俺とやりあうつもりか!?」
燐はにらみながらそう聞いた。
アマイモンが答える前にメフィストが口を開く。
「いえ、今回は純粋に遊びに来ただけですよ。で、せっかくの夏だから、と夏の風物詩を楽しみたいようなんですが、生憎私は多忙でしてね?」
「おい、なんか嫌な予感しかしねぇんだけど?」
「イヤな予感?いえ、ボクは楽しみなだけです。」
「・・・どういう事だ?」
「ですんでね、奥村くん。今日一日、コレの面倒をみていただけませんか。」
「なっ!?ウソだろ?!」
「へえ、これが屋台・・・。」
アマイモンはもういっそ頬を染めて喜んでいる。
結局、燐は面倒を見るはめになった。
「仕方ないですね。面倒をみてくれたら、私の尻尾を見せてあげてもいいですよ?」
「見る!!」
・・・速攻だった。
「・・・だって・・・前から気になってんだもんよ・・・メフィストの尻尾、すげぇ見てみたいじゃん・・・。」
燐は自分に言い聞かせるようにブチブチとひとりごちた。
「これは何です?」
「ああ、これ、な。」
まあ祭りに行く駄賃だといって、特別こずかいももらった事だし、いっそ自分も楽しむか!!
もともと楽天的すぎるくらい楽天家な燐である。
皆に姿をばらす羽目になる結果になった相手ではあるが、まあ、いいか、とアマイモンが気になったものなどを買ってやる。
それにしても・・・燐は思った。
破天荒でめちゃめちゃな奴だが、こうやって屋台を楽しんでいる姿を見ると、いっそ可愛くみえてくる。
あまりに無邪気な楽しみように、つい、そう考えてしまった。
(俺、どうかしちゃったんかな・・・?)
そんな事を考えている隙に、アマイモンが金魚釣りの金魚を手で捕まえて、アーン、と、自分の舌の上に乗せようとしてるのに気付いた。
店番をしているおじさんはもはやどん引きをとおりこして、唖然としている様子であった。
「わ、悪りぃっ。」
燐はぎょっとしつつも、慌ててアマイモンから金魚を奪い取ってまた水に戻し、そしてアマイモンの手をつかんで逃げるようにその場から走った。
「奥村燐、どうしたんです?」
「お前がどうしたんだ、だ!!いいか?今日だけでもせめて、勝手な事はするな!じゃないと帰るぞ!」
「よく分かりませんが分かりました。」
「・・・。」
「あ、これ。これはなんです?」
また新たなモノを見つけ聞いてくるアマイモン。
見ると最近屋台でよく見かけるきゅうりの一本漬けだった。
燐は黙ってそれを買い与える。
「・・・甘くない。」
「そりゃあそうだろ。つーかこの色みて甘いと思えるお前が凄いぞ。」
「なんかボクの手に落ちてくる。」
漬物というよりは塩漬けのようなものだから、そりゃ水分が落ちてきてるんだろうよ、と思いつつ黙って見てると、アマイモンがキュウリを持っている自分の手を舐め出した。
「っ!?」
な、なんだ俺!?
燐は焦った。
なんで今のとこを見て、ドキドキしてるんだ?理解出来ない。
だが、目が離せなかった。
しばらく手の平や指を舐めていたアマイモンは、また棒につきさしたキュウリを食べ始める。
それすらもなぜか煽情的に見えてきた。
「どうしたんです?奥村燐。」
「っい、いや・・・。」
「この緑のモノと、ボクの手、ちょっとだけ塩っからいです。なかなかうまい。」
っくそっ。
「どれ・・・。」
燐は手を伸ばしアマイモンの、キュウリを持っている手を引きよせた。
そしてその手の親指を舐めた。アマイモンはそれをポカンとして見ている。
「ん。塩辛い、な。」
そう言いつつ、燐はアマイモンの掌や指を舐める。
「ど、うしたんです?ボクの手は今は美味しくなってますが、基本的に美味しくないですよ?」
「ああ、そうだろうな。」
いや、手だけじゃなく、もう、全部が美味しそうにしか見えねぇ、と思いつつ、燐は言った。
くそっ。
だめだ。
意識してしまったら、もうそうゆう風にしか見えない。
はしゃぎまくり、食べまくる(てゆうか食べすぎだろ・・・?)アマイモンから目が離せない。
「何この可愛い生き物・・・」
花火があがる頃には、燐はアマイモンに対する気持ちが180度変わっていた。
「わあ、綺麗です!!」
アマイモンは地の王とは思えない無邪気さで次々と上がる花火を見上げて楽しんでいる様子であった。
場所はなかなかの穴場だった。
少し奥ばった木陰。
ちょっと見えにくくはあるが、その代わり人もなく、のんびり座って見れる。
だが燐は花火などほぼ見ていなかった。
「なあ。」
「・・・。え?何です?」
ポカンと口をあけて空を見上げていたアマイモンは声をかけられていた事に気付き、燐を見る。
「かき氷。溶けてきてんぞ?」
「なんと!!大変だ。」
手もとのかき氷がだんだんと甘いただのシロップ水になりつつあるのを慌ててかけ込む。
「うまいか?」
「はい、甘くて美味しいです。」
「へえ。じゃあ俺にも食べさせろよ。」
「え?もうありません。ボクが全部今、食べてしまいましたから。」
「いいよ。俺はこっちで味見するから。」
そう言うと、燐はアマイモンの後頭部を支えるようにして引き寄せ、すこし舌を出しつつ顔を近づけた。
そして口を合わせる。
ポカンとしたままのアマイモンが抵抗しないのが分かると、そのまま舌を差し入れ、甘い咥内を味わった。
しばらく存分に味わった後、そっと唇を離す。
「ん、甘い。」
「・・・今のは、なんです?誓いの口づけでもないのに?奥村燐は、ボクを食べる気なんですか?」
「・・・喰っていいなら、喰いてえが、な。まあ、あれだ、その、ある意味誓いのキス、かな?」
「何のです?」
「んー。順番が逆になったけどさ、俺、お前の事、どうやら可愛くてしかたないみたいなんだ。だから、好きだよ、のキス、かな?」
「可愛い・・・?ボクはあなたの兄のようなもんですよ?・・・でも不思議だな・・・?なんだか楽しくなってきた。」
ほんのり赤くなってるアマイモンを見れただけでも、燐はもうけもんだと思った。
「・・・他に表現はねぇのかよ・・・。まあ、いいや。じゃあ、好き同士の、キス、な?誓いのキスだからって言って、俺の唇、噛みちぎろうとするなよ?」
そう言うと、燐はもう一度、アマイモンの顔をひきよせた。
空にはひときわ明るい花火が打ち上げられていた。