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燐がもし悪魔に襲われたら【メフィ燐・アマ燐】

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メフィ燐




身体は動かなくて、頭がガンガンして上手く思考がまとまらない。
自分の腹から温かい血が流れていっているのが解った。
ふと、視線を上に向ければ残虐な悪魔の嘲笑が、紅い満月を背にして瞳に映る。

(ここで・・・死ぬのかよ俺・・・っ)

いくら歯を食いしばったところで、身体に力など入るわけもなく。
悪魔が振り下ろす強靱な鎌を、霞みゆく視界の中で見ているしかなかった。
野太い下卑た嗤いが、燐の鼓膜を忌々しげに揺さぶる。

(くっそう・・・!)

燐はぎゅっと瞼を閉じ、その鎌が振り下ろされる瞬間を待つことしか出来なかった。
しかし、幾ら待てどその鎌が振り落とされることはない。
その時、とても聞き慣れたけれど、この場では聞くことのないはずの声が、聞こえた。

「誰が、このような事をしろと命じた?」

その声は燐が知っている声よりとても低く、冷たく、静かだった。
それなのに、その声の主が怒っている事が分かる声だった。
燐は力を振り絞り重たい瞼を開け、最早定まりきらない瞳でみる。

「ぁ」

驚きで見開かれた瞳、口から出た吐息のような言葉。
紅い満月の光りは薄暗くて、しっかりとした姿を映し出すことはなかったけれど、
風に揺れる白いコートに、見慣れたシルクハット。
燐を守るようにして悪魔と燐の前に立ちはだかった男は、
一度燐を背中越しから見つめると、すぐに悪魔の方へと視線を戻す。

「この子を傷つけて良いと、誰が命じた」

威圧感を漂わせ、有無を言わせぬ覇気を放つ。
燐はなぜだか解らなかったが、自分が泣いていることに気が付いた。
ホッとしたのか、安心したのか。ただ、心のどこかでもう大丈夫だ、と誰かが言った。

「覚悟するがいい。このメフィスト・フェレスの物を傷つけたことを」

メフィストのその言葉を最後に、燐はとうとう意識を手放した。