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電波っぱ【臨帝】

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 欲しいものを手に入れるために必要な段取りとは何か。
 一番大切なことは欲しいものをきちんと見極めることだと俺は思う。見極めて、ちゃんと正しく手入れをする。
 高級な牛革のソファが数年もせずにボロボロになったのを見たことがある。持ち主は大金を出して買ったというのに何十年も持つ触れこみは大ウソだと息を巻いていた。
 かわいそうなのはクレームを処理しないとならない家具屋か高い金を払って無駄な買い物をした無知な主人か。
 俺はボロボロになってしまったソファだと思う。
 ちゃんと手入れをすればそれこそ一生ものの高級品。
 壊れたものは戻らない。
 手入れ方法をきちんと伝えなかった家具屋が悪くても、ろくに調べもせずに適当に扱った主人が悪くても、どうだっていいのさ。
 ボロボロになったかわいそうなソファは戻りはしないんだ。時は不可逆で巻き戻ることなどあり得ない。壊れたソファは壊れたまま。新しく皮を張り替えればソファとしての機能は継続されるかもしれない。
 それでも、壊れた事実は変わらない。
 新しい革の下にあるボロボロの姿。
 痛ましくて切なくなる。
 かわいそうなソファはなんて愛しいのだろう。
 無下に扱われたソファ。
 ちゃんとした情報をもって触れたのならこんな事にはならなかっただろう。かわいそうにかわいいソファ。
 人の心も体もソファのような無機物と変わらないのだろうか。変わるのならばどう違う。変わらないならどれだけ同じ。見たい。知りたい。ぶちまけたい。
 曝け出される本質に土足で乗り上げて蹴りつけたい。
 誰だってそんな欲求があるだろう。
 誰だってそんな劣情があるだろう。
 俺だってこんな風に思うんだ。

「恋したら世界が変わってしまった」

 愛しいと、恋しいと、たった一人に対して思った。
 痛いのだ。痛かったのだ。胸が、身体が、頭が、手足が。
 恋したからに違いない。今まで感じたことのない痛み。
 さあ、ソファを買いに行こう。俺は手入れを間違えない。


作品名:電波っぱ【臨帝】 作家名:浬@