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龍吉@プロフご一読下さい
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novelistID. 27579
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亡国の騎士

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私の意思。
それは世界を壊す意思。


亡国の王ととある騎士



燃える町。
崩れ行く城。
踏み砕かれる歴史。

これは、かつて滅んだ国。

「国王!早くこちらへ!!」
「急いでお逃げください!!」
侍女や従者が城の周りを駆け回る。その顔は焦燥で白褪めている。
「もう、急いで下さいったら!!」
一人の侍女は、比較的落ち着いている。橙色の長い髪を翻し、地図にあれこれ書き込みながらその合間に国王の背中を引っ叩く。
国王は冠を片手で抑えながら、一人の従者に肩を借りてよたよたと歩いていた。どうやら、脚を怪我しているらしい。
「おい。国王が尻尾巻いて逃げ出す気かよ?」
低い声が廊下に響く。国王を捲し立てていた侍女が箒を構え、肩を貸していた従者が国王を守るように身構える。
廊下の角を曲がって現れたのは全身血塗れの剣士だった。
髪の先から爪先まで血に塗れ、その中で鋭い三白眼だけが異常なまでに爛々と輝く。背中には身の丈を超える黒刀を背負い、その鋒からも血を滴らせている。
「おまえ、傭兵の」
「裏の逃走路を見てきたら案の定伏兵がいた。全員の息の根を止めたからしばらくは安全だろうが、それも時間稼ぎに過ぎない。おまえら、表から出ろ。侍女も従者もみんな引き連れて、堂々と出て行け」
「あんたを、信用しろっての」
「おれは下っ端には話しかけてねェ。国王、決断しな」
「国王、こんな奴の言うこときくこたねェ。どうせ表から出て包囲軍を始末しようとして道に迷って裏に行ったんだろ」
「どちらにせよ、相手方に裏の抜け道はバレてんだ。そこからのこのこ出て行こうモンなら、上から突き崩されて生き埋めがせいぜいのオチだ。なら、表から出た方が利口だと伝えにきたんだ。従者その一は黙ってな」
「こんのクソ野郎……」
「やめなさい!!こんな時に揉めてる暇はないでしょう!?」
「決めた」
「ん」
「おれは、おまえを信じる」
「国王!!てめェには、国民の命が掛かってんだぞ!?そんな奴のことを信用して……」
「みんなの命はおれの肩に乗せていく。その分おれの背中はおまえに預けるよ」
「……了解、国王」
口元も血で塗り潰されて位置すら判然としなかったが、口と思しきところに鮮血を切り裂いて三日月が現れた。どうやら、傭兵は笑ったらしい。
一行は城の中を進み、とうとう門まで辿り着いた。
金髪の従者が門を押し開けるとそこは未曾有の戦場が広がっていた。
「兵を頼む。纏めながら、撤退しろ」
「その必要はねェよ。この戦場は、おれ一人で引き受ける」
傭兵の一言に三人が振り返る。
「なにばかなこと言ってんだ!!そんなことができるもんか!!」
「そうよ!!撤退し続ければ、態勢も立て直せるわ!!」
「命を無駄にするな!!」
「うるせえ!!!!」
傭兵の一喝で、三人はぴたりと口を閉じた。
「もう時代の流れには逆らえねえ。この国はどうやったって滅ぶんだ」
「……んだとゴラァ、もっぺん言ってみやがれ!!!」
「何回だって言ってやる、この国は!助からねェんだよ!!」
「こんのっ……」
「やめてって言ってるでしょ!!」
「この軍を見ろ。この国の領地を侵し尽くした軍勢だ。これがおれたちの敵で、世界だ。世界の果てまで逃げたところで、こいつらは追いかけてきて、国王であるおまえを殺すだろう」
傭兵は国王の目を真っ直ぐに見て言い放った。
「なら、どこかで誰かがこいつらを止めなきゃいけない。その間におまえは、歴史を紡げ。そしてまたいつか時代が巡りおれたちの歴史を紡ぎ直すものが現れる。その時、おまえの意思を継ぐものがあの世界を壊してくれる。それが、おまえができる最後の仕事だ」
「そのために、おまえを置いて行けってのか」
「そうだ」
「自分の身が可愛くて家臣を捨てる国王に、どこの国民がついてくるっていうんだ!!」
「てめェには、その頭に乗っかってるモンが見えてねェのか!!!」
額を突き合わせるように傭兵が怒鳴り返す。
「てめェの頭に乗ってるそれはただの飾りでも権力の象徴でもない。国の最後の拠り所って証なんだ!!そのおまえが家臣一人にかかずらって国民を危険に晒す気か!?おまえは自分がやるべきことを理解しろ!!私情と義務を割り切れよ!!!おまえがやるべきことはなんだ!!!!」
血飛沫を飛ばしながら、傭兵は言い放った。
「なら、おれも一緒に戦う」
「てめェが右脚を骨折してなけりゃ、考えたかもしれねぇな」
「それでもおれは、お前だけおいていくことなんか出来ねぇ!」
「そう言ってくれただけでも、ありがたいぜ。……おい、連れて行け」
傭兵が言った瞬間、従者と侍女が国王を羽交い締めにして引き摺った。
「おい!!おまえら、放せよっ!!」
「……いいのか」
「構わねェ。どうせ、他に使い道のねェ人生だ」
「放せったら、おいっ!!」
「……新天地で、待ってるから」
侍女は顔も上げずに言った。
「嫌だっ!!」
「そうだな、おまえが国の歴史を刻むなら、おれの名前も刻んでくれよ。この国の最後の騎士として」
傭兵は背を向けながら言う。
その背中がどんどん遠くなっていく。
「来いよ、ゴミども。おれの命がある限り、あいつらを追わせはしねェ」
背中の黒刀を抜く。国軍が速やかに退却する。そして二つの軍の間に僅かに開いた間隙に、傭兵が躍り出た。

黒刀を一閃。

敵の軍が宙に舞う。



「さァ、この国を滅ぼしたけりゃ、おれの息の根を止めてみろ!!」








遠くなる背中。
傷一つない背中。
泣きそうなほどに。








それから三ヶ月後、逃亡軍は追いかける敵軍を見つけた。








もしこの頭の冠が、麦わら帽子だったなら、命尽きるまで戦えたのか。

もしこの右脚の骨が、折れることがなかったなら、彼の隣で戦えたのか。

もしこの腕が伸びたなら、彼の最期に触れられたのか。






遠く響く、槍を打つ音。
死した騎士への弔いの音。

誰が聴くともない音が、国王の耳には届いただろう。