もう一度
「ん。どうしたの?」
「あのね、甘楽ね、公園に行きたいの!!!」
「そっか。じゃあ、公園に遊びに行こうか?」
「うん!」
私は、今もあなたのことを思っています。
あれは、5年前。
あの時の僕は、何も知らない無垢な子でした。
親友に誘われ池袋に来て、新宿の情報屋の臨也さんを好きになり、恋人同士になりました。
毎日が、幸せでした。そう、あの人に告白されるまでは・・・・・。
僕は、いつものように家へ帰る道を歩いていると前方に見覚えのある人が歩いてくる。
長身で、金髪をなびかせていた。
静雄さんはこちらに気づいたのか、近くまでやってきた。
「よう、帝人。」
「こんにちは。静雄さんはこれからお仕事ですか?」
「いいや、今休憩なんだ。公園にでも行ってこようかと思って。」
「そうだったんですか・・・。」
「帝人、お前今暇か?」
「えっ、ええ。」
「じゃあ、付き合ってくれねえか?」
「いいですよ。」
僕は、この時気づくべきだったのだ。静雄さんの目が欲情に膨らみ、まるでこれから餌を食べる肉食獣のような目つきだったことを・・・。
僕と静雄さんは公園に着いてから手前にあったベンチに座り、静雄さんはブラックコーヒー、僕はミルクティーを飲んでいた。
しばらくの沈黙。いつもなら心地いいはずなのに、今日だけは何だか胸騒ぎがした。まるで、ここから離れろといっているようだった。
「最近どうだ?」
沈黙を破るように、静雄さんの低い声が響いた。
「楽しいですよ。池袋にも慣れたし・・・。みんな、優しいし・・・。」
「そうか・・・・。」
また、沈黙。
頭がさっきよりも強く反応している。
やばい、やばい、やばい。
そう叫んでいるように聞こえる・・・。
「なあ、帝人。」
「はい?」
この時、僕は返事したことを後悔した。
「お前、臨也と付き合っているのか?」
僕は、返事に困った。静雄さんからその言葉が出てくるはずがないと思っていたからこうして隣に居れたのだ。もちろん友達として・・。
迷ったあげく、「ええ。」と返した。
「そうか、・・・・・どこまで行った?」
しばしの沈黙。今、なんといっただろうか?
静雄さんの口から僕と臨也さんの関係が‘どこまで,と言ったのだ。
ありえない。だって、僕と静雄さんはただの友達で臨也さんとは因縁仲でそれで・・・
静雄さんも臨也さんもお互いを毛嫌いしていて・・・なのになぜ?
声を出せないでいると、静雄さんがゆっくり距離をちじめて来た。
「なあ、帝人」
呼ばないで!何かがそう叫んでいる。これは何?だって、体中の指令を出すモノが一斉に今すぐ離れろ!と命令している。
とっさに横にずれようとして、静雄さんの手が僕の手をつかんでいることに気づく。
抗議しようとして顔を上げるとそこには欲望に染まった目があった。
「し、静雄さん?」
呼びかけてみると彼は僕の手をゆっくり自分の口元に持っていく。
持って行ったかと思ったら、その手を甘噛みした。
「痛っ!!!」
すぐ、自分のほうに引き戻そうとするが、強く握りしめられているため戻せない。
「なにするんですか!」
声を上げてみた。すると、静雄さんは笑顔になった。笑顔なのに目が笑っていないため怖い。
「なあ、帝人。よく、ちょっとした仕草で相手に思いを伝えるってあるよな?例えば、手の甲にキスとか・・・なら、手首を噛んだり、足首を噛んだり・・・・唇を噛んだらどんな意味になるんだろうな?」
僕はこの時、静雄さんが僕の手をつかんでいる理由を知った。それと同時に、本能が激しく警告を鳴らす・・・・目がかすんでくる・・・・頭が割れそう。
早く逃げなくては!
手を引き抜こうとしても、ビクともしない。
必死になって抜こうとすると、静雄さんの顔から笑みが抜けた。
まるで、汚いものを見るような顔をしている。
「なあ、なんで嫌がるんだよ?お前は俺のもんだろ?お前は、俺の気を引かせたくてあいつと付き合ってるんだろ?でも、もういいよな?だって、俺らは両思いなんだから!」
血の気が引いた。何を言っているんだ目の前の男は?
何時、お前のことを好きだといった?何時、お前のものになった?何時、臨也さんを愛してないと言った!!!
そう思っていたら、急に目の前のことが現実なのか分からなくなった。
僕が黙っていると、いきなり繋いでいた手が強く握られた。
「いっっっっつたい!」
びっくりして前を見ると、僕の顔を見た瞬間笑顔になった静雄さんがいた。
「ごめんな?お前が俺のこと見ないから、ちょっと力入れちまった!痛かっただろう?」
そう、優しく言ってたけど、いまだ繋いだ手を放してくれない。さっきよりは力は入っていないが、いつものような優しい手ではなかった。
その、痛さが自分は現実にいるという実感を強く感じさせる。
「俺たちは、晴れて両思いになったんだ!これからは、ずっとそばにいるからな。だから、お前も一緒に居てくれるよな?」
いやだ!そう叫びたかった。でも、恐怖で口がうまく開かない。
唇は震え、顔からは生きているのかさえわからないくらい白くなっている。ここに鏡があるわけではないのだが、自分の姿が想像できるほど酷かった。
静雄さんは、僕がうれしくているのだと勘違いしたのだろう。
僕の腕を自分の口まで持ってきて笑顔で、僕の腕を 噛んだ。
「っつ!」
腕が噛み千切られるんではないかというような甘噛み。僕はいろんなショックから倒れそうになる。でも、そうさせまいとするかのように、静雄さんの声が響く。
「なあ、俺は思うんだ。手首を噛むことは、『お前がふれていいのは、俺だけでいい』
ってことだと・・・・だから、帝人。お前がふれていいのは俺だけだ。」
そう言われたと思ったら、いきなり強い痛みがしてそのまま意識が飛んだ。
最後に見たのは、静雄さんの満面の笑顔だった。
強く揺さぶられた気がして意識が覚醒した。
目を開けると、そこには静雄さんがいた。
あたりを見渡すと、知らない部屋で、僕はベットの上にいた。
再び静雄さんを見た瞬間、体が尋常じゃないくらい震えだした。