永遠の片想い
深夜1時
携帯が光った。
「もしも~し…誰~?」
しばしの沈黙。
外は雨が土砂降りで、電話越しでもその音がうるさいくらい聴こえる。
「………俺」
やっと返事をした小さい声。けれど、はっきりとわかった、声の主。
「どう、したんすか…こんな時間に…」
声が震えそうになる。
心臓が、締め付けられた感覚に襲われた。
「濡れた、いれて」
いつもからは考えられないくらい
低い声。
俺が言うのもあれだけど、声が震えている。
「いいすけど、…先輩、家h「おじゃまします」
そう言って、ブツリと電話が途絶えた。
かわりに、家の扉が開いて、階段を上る音がする。
一分後、部屋の静かに開かれたドアの前には、びしょ濡れの丸井先輩が。
「おわっ、まじでびしょ濡れじゃないすか!」
近くにあったタオルを手に取り、丸井先輩の綺麗な人工色の髪を拭く。
(…泣いてる…?)
雨のせいなのか、顔までも濡れていて、反射的にそんなことを思った。
「先輩、大丈夫っすか?」
「ん…なんでもねぇ」
「とりあえず、シャワー…」
「やだ。寝る」
終始下をむいたまま、どたどたとベッドへ倒れ込んでしまった。
濡れたままだと気持ち悪いのか、上の服を無造作に脱ぎテーブルの上へ投げた。そのせいで俺が一生懸命解いた英語のプリントは亡きものに。
(…床拭かなきゃな。あー、がんばって解いたのにちくしょう)
(てゆか、やっぱ泣いてたんじゃん…)
目が赤くなって腫れてる。
…相当…泣いたんだな…
……仁王先輩か…
***
「先輩、…せんぱーい」
「ん……」
「あれ、赤也…?なんで赤也?」
「…覚えてないんすか」
まあ無理もないか…。
寝ながらも泣いてたし。
「なんかあったんすか?」
「…今何時」
(…俺の気遣いスルーかよ)
「10時ちょいすぎっすね」
「まじで!?やばっ、朝練!てか学校!!」
「朝練なら、幸村部長に連絡しといたっす」
「…そっか」
「あの、なんかあったんすか?」
めげずに訊いてみる。
丸井先輩の表情がどんどん曇っていくのがわかったけど、目をそらさずに見つめた。
「……仁王がさぁ…」
ちょっとして、話しだした。
(最初から薄々思ってはいたけど…やっぱりそうだったか)
丸井先輩のテンションをあんなに下げれんのは、今んとこ仁王先輩しかいない。
俺はそれを、何食わぬ顔で見てることしかできない。
叶うことのない恋だ、って、その度に思いしらされる。
(あー、仁王先輩消えちゃえばいーのにな)
(でも消えたら…丸井先輩は、死んだようになるんだろうけど)
「……最近、すげー香水の匂いさせてくんの…」
(…泣いたら抱きしめていいのかな)
「でさ。この前、知らない女の子と仲良く歩いてるの見ちゃってさぁ…」
「しかも3回も」
「で、昨日そのこと話したの。したらなんかあいつっ、…優しくっ…んッ…でっ…」
「先輩」
気付いたら抱きしめてた。
目の前で人が泣いてる、ってゆー条件反射的なのもあるんだろうけど……
これは多分、俺が丸井先輩のことを好きだからだな…
(体、冷たい…)
「…なんでそんなことされてんのに、仁王先輩にこだわるんすか」
(俺じゃ駄目なのかよ)
「仁王が好きだから」
「仁王先輩は、丸井先輩のこと1番に好きじゃなくても?」
…今すげー最低なこと言った俺。
「…っ!!!…わかってるよ!俺は仁王の1番にはなれねーの、くらっい…、」
「俺なら…1番大切にすんのに…」
「うん?」
「丸井先輩…俺、先輩のこと好きっす」
「でも丸井先輩は仁王先輩のこと好きだから……」
「…んっ、」
「…もーちょっと、このままでもいーっすか…」
抱きしめる腕を少し強めて訊く。
丸井先輩は、何も言わないまま目を綴じた。
先輩が、大好きな仁王先輩のことでこんなにも弱くなってしまうんなら
先輩のことを大好きな俺が、先輩が傷ついてしまった時、そばにいて抱きしめます
-END-
(あなたの涙を)
(俺にください)
(あとがき→)