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鳥篭学習【臨帝】

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 臨也はぐつぐつと煮えたリゾットに満足する。
 土鍋の保温力はいつでも面白いものだ。
「ね? 冬だけじゃないんだよ。土鍋はいつでも台所の味方」
 まだ帝人とは結婚していないので自分を指して『主夫』とは言わない。そのぐらいは弁えている。
「チーズいっぱい入れたんだ。美味しいと思うんだ」
 壁の方を向いたままの帝人に臨也は語りかける。
「ねえ」
 臨也の声は変わらない。
 低くなったわけでもなく、嘲りもない。
「ねぇ、帝人君」
 縋るような声でもない。
 ただ、呼びかけている。
「俺は優しいから、ちゃんとね……はい、あーんってしてあげる」
「あぁ、そうですか。優しい折原臨也さんはさっさと警察にでも自首してくださいよ」
「ビックリした。帝人君、喉が渇きすぎて声が出ないのかと思ってたよ。今日は水をボイコットの日なんでしょ? 飲まないもんね」
 楽しそうに臨也は笑う。噛み合わない会話。
「いい加減にしてください。馬鹿げてる」
「お腹が空いて苛立ってる? ちゃんと消化を考えてリゾット、リゾット、どろどろろ~」
「一人で食べてればいいです」
 帝人はあくまで壁を向いたまま。
「ねぇ、帝人君。その体勢って首が疲れちゃわない?」
「そう思うなら身体を壁向きにするために足枷外してもらえますか?」
 臨也は肩をすくめて、溜息を一つ。
 表情を憂鬱に曇らせて「ひどいな」と呟く。
「帝人君はどうして俺に優しくないんだろう」
 そう言って鍋つかみで掴んでいた土鍋の逆さにする。
 中身が一塊になって帝人の横向きの頭に落ちる。耳の中に入っただろう。声なく悲鳴を上げる帝人に糸を引くチーズを名残惜しいと臨也は思った。
「仕方がないからさ、一人で食べることにする」
 ベッドに乗り上げて臨也は帝人の上にかかったリゾットを口にする。味見だけでお腹がいっぱいだったが案外震える帝人の上にあると美味しい。
「あ、舌が火傷しちゃった。ゆっくり食べないと駄目だね」
 臨也は帝人の首筋に息を吹きかけて冷ましながら煮た米を食べる。楽しそうに自分の料理を絶賛した。
「帝人君、何か言うことある?」
「……ちゃんと全部食べきってくださいね」
「お米を残すのはいけないことだよね。変な所に入ったのも全部、俺は食べるよ」
 帝人の頬についた米は塩辛い水に濡れていて美味しくなかったが殺し切れてない嗚咽はどこまでも耳に心地いい。
「俺に何か言いたいことある?」
「……あなたは誰ですか?」
「帝人君、疲れた?」
 眠いのだろうかと臨也は帝人の頭を撫でる。
 自分の手が汚れることも気にしない。
「なんで、なんで、こんな……こんな……」
 打ちひしがれているような帝人にどんな言葉をかけるのが正しいのだろう。
「俺は、何も強請しないよ。帝人君の好きにすればいい」
 やわらかな頬の感触に塩辛さが甘味に変わる。
「あははは、ねぇ、飛び立ちたいなら羽ばたきなよ?」
「死ねってことですか」
「誰がそんな酷いこと言ったの? 許せないね」
「……何があったっていうんですか。なんで」
「小鳥は鳴いてればいいのかな。虫なら食われる?」
「何を言っているのか分かりません」
 帝人はやはり壁を向いたまま。
 頬に乗ったご飯は全て食べたのに臨也の方を見もしない。
「分からないのかな? 伝わらないのかな? どうしてだろうね。足りないからかな。じゃあ、鍋にいっぱい作ったからそれを――」
 ベッドから離れようとする臨也に帝人はやっと視線を合わせた。眉間に皺が寄っていた。
「小分けにするのは土鍋じゃなくてお茶碗でお願いします」
「あぁ、そんなことで拗ねてたんだ? ちょっとシーツ変えようか。手に巻いてるガムテープは新しい色にする? どの色でも包帯の白で隠すけどね。帝人君にも気分転換が必要かなって」
「臨也さんは優しいですね」
 帝人の言葉に瞳を輝かせて「そうだよね」と大げさなほどに頷いた。子供が成績を褒められた時のような無邪気な笑顔。
「きもちわるい」
 服を剥ぎ取っていく臨也に向ける帝人の瞳は冷たい。
 それに臨也は悲しくなったので帝人の顔にまだ残っていたリゾットに向けてタバスコを振りかけた。

「帝人君は元気だなぁ」

 ほのぼのとした気分で臨也は帝人の不格好な寝返りを見ていた。

作品名:鳥篭学習【臨帝】 作家名:浬@