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夜明けのオクターブ〔銀新〕

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「お前、なんて顔してんだよ」

薄汚い道端に座り込んで、酔いも回った中うなだれていた。夜の街とはいえ、朝型近くなると、人もまばらになって、店からの灯りも消えていく。異様な静けさの中、新八の顔を見上げた背には色が混ざり合った不思議な空が広がっている。
いつものように大した資金もないまま、ツケだ何だと飲み歩いた。そんな自分をよほどの事がない限り、新八は別に探しに来たりはしない。以前は探しに来たと言うより、いいかげん金を払わないことで店に足どめされた自分を迎えに来たくらいだ。
だから自分も、いつものようにこのままなんとか万事屋を目指してふらふらと帰る、つもりだった。
だが、悲壮な声を上げ自分を呼んだかと思うと、新八はそのまま俯いたままじっと立っている。そのまま何も言わなかった。
何か言ってやらなきゃななんて頭では思いつつ、上手く言葉は出てこない。ただ、その佇まいは何か切なさを漂わせるもので、その姿に見惚れていた。
そんな下ばっか向いていると、眼鏡おちんぞ。そんな軽口を言うつもりなのに、全てその空気に飲み込まれていく。この静寂に耳が痛くなりそうだ。

すこし冷静になって見返すと、新八は小さく震えているように見えた。拳をみるとそれが良くわかる。その家事で少し荒れてしまっている手が震える様は、見ていてどうしようもない気持ちにさせる。でもそうさせているのが自分なのかと思うと、何か複雑な嬉さも込み上げてきた。
「どうしたよ」
結局そんな当たり前の何の飾り気もない言葉しか出てこなくて、笑えた。進歩ないな。
そう問いかけると、新八はがくっとひざを追って、一緒になってその薄汚い道端にひざをついた。そして視線の合う高さで、眼鏡を通して目を潤ませていた。俺はそれに夢中になって、いつそれが頬へ零れるのかをじっと見ていた。
「心配で…」
震える声がそう伝える。そこで涙は粒になって落ちた。お前の、その涙を零してまでの言葉と心配だったけど、やっぱり自分にはよくわからなかった。酔った朝、しょーがないなあって顔してるお前はどうしちゃったんだよ。今まで何度かあった危機的状況でも、こんな新八は見ない。やれば出来る子じゃないか。
「もっと心配してくれてもいい時は他にあるぞー」
店先によっかかってた背を上げ、俺は新八の零れた涙に触れてみた。生暖かさに逆にぞくりとした。
「僕や…、神楽ちゃんが大変なことになっていたら、銀さんは絶対それを見捨てたりしない。それはわかってるんですけど…。けど、そういう事の後、日常が戻ってくると僕怖いんです。銀さん、ふいにこのままいなくなっちゃうんじゃないかって」
馬鹿言うなよって思った部分もあるが、するどいとこをついてると同時に思った。背負ってるものが大事すぎると、それが自分の背から落ちるところは見たくない。自分のせいで騒動に巻き込み、いかにそれが大事だったか認識して、時々同じことを繰り返しているんじゃないかと思う。何でも過ぎるとよくない。でも新八、俺はお前がそんな弱くないってことも毎回認識するんだぜ。
「なんねーよ。なんねーから、新八。俺のこと万事屋まで連れて帰って」
結局、肝心要の部分は上手く言葉には出せなかった。でもまあ、伝わってるかもしれないという僅かな期待と、心配の涙声でもいいから聞けた言葉に満足した。

「しょーがないなあ」

ほら、夜明けがくる。