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お仕置きだからね、静雄さん!〔静帝〕

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遠くで、何か破壊されるようなガシャンという音が響いて僕は足を止める。まさか、と思ったが、人ごみの中でその音はかき消されていくので、気のせいかもしれないと再び歩きだしたところで、大声で呼ばれた。それは僕の名前でもなければ、知り合いでもなかったけれど。


この池袋、いや、もしかしたら世界最強の男、池袋の自動喧嘩人形と呼ばれている平和島静雄。実際この似合わないと言われるだろう本名を知る人がどれだけいるのか知らないが、池袋にいる者なら知らない人は少ない有名人だ。そんな静雄さんが有名なのは、キレやすい性格と、その圧倒的な力のせいだ。怒りが増せば増すほど、静雄さんは信じられないような力を発揮する。それは見るものが目の前の光景を疑うような、信じがたいほどの力。事実、僕だって初めて見た時は驚くしかなかった。
自販機や車が宙を舞い、標識が折り曲げられ、振り回される。そして必ずケンカを売ったり、不用意に静雄さんを苛立たせてしまった人は後悔するのだ。それにそれだけの物が放り投げられるわけだから、周りの建物だって甚大な被害を被る。
だけど周りの人間はどうすることだって出来やしない。ただじっと、その怒りが収まってくれるのを見守ることしか出来なかった。
少し前までは。
今はまことしやかなうわさが流れ始めているのを僕は知っている。ネットでもその話題で持ちきりだ。日々、その情報は増えていき、ひとつずつのピースを組み立てていくとおのずとわかる。そして最終的にこう結論が出た。
池袋の自動喧嘩人形のマスターが現れた、と。
そして先ほど呼ばれて振り返ったのが僕だ。
やっぱり聞き間違いじゃなかったんだと確信したけど、名乗り出るべきなのか僕は迷う。そして結局放っておけるわけはなく、場所だけ聞いて駆けつける。すでに距離をおいてはいるものの、周りはぐるりと囲まれるように見物人がたくさんいた。そしてざわざわと騒がしい中、聞こえてくるキーワード。
「あいつ呼んでこいよ、あいつ」
「俺はなんか童顔って聞いたけど」
「年がわかんなきゃ、意味ねー」
「ブルーのブレザーの制服だろ?」
「来良学園の生徒だって、私聞いたことある」
「なんか、あの池袋最強の男を従えてるんだって」
うわさに尾ひれがついて、とんでもないことになっている。そして目の前の現場も、確かに同じくらいとんでもないことになっている。近くの店のショーウインドウが割れて、標識が突き刺さっている。店の人は泣くどころの騒ぎじゃないだろう。
どうしよう。
迷ってるうちに、見物人の誰かが僕のことに気づいて声をかけてくる。
「おい、あんただろ。あいつ止められるの」
「………」
「出来るんなら、早くなんとかしてやれよ!」
何を迷う必要があるんだと言わんばかりだ。
そう言われて、もちろんこれ以上何かが破壊されるのも、人が傷つくのも止めるべきことなんだろうという事は僕だってわかっていた。静雄さん本人でさえ、後で酷く後悔することがある。でも、だからこそ僕は姿を表すことを躊躇していた。僕が止めようとすれば、静雄さんはやめてくれる。けど、きっといつも以上に傷つくのだ。
大体、僕自身にサイモンさんのような静雄さんを制止させるような力なんかない。むしろもっと卑怯でずるい、彼の弱みに付け込むようなやり方だ。
そもそも、こんな理由で静雄さんを止めていいのか。
がしゃんとまた何かが投げ込まれる音がして、きゃあという悲鳴が聞こえる。
「おい、あんた──」
「わ、わかりました」
僕は肩にかけていたショルダーバックのベルトをぎゅっと握り、人ごみを掻き分けていく。そしていよいよ輪の中心のステージへ立ったのだ。
「し、静雄さん!」
僕のありったけの大声に、周りのざわめきも消えて視線が集中するのがわかる。そして、静雄さんも動きを止め、こちらを凝視していた。
「帝人、ちょっと待ってろ。もう少しで終わるから」
その静雄さんの言葉に、周りは落胆を隠せない様子だ。やっぱりうわさは嘘だったのか等のつぶやきが聞こえてくる。
言うしかない。ここまできたら言うんだ、僕!
「静雄さん、止めてください!じゃないと─」
何を言うんだという先ほど以上の刺すような視線と、時が止まったみたいな静寂。
そして僕は、とどめの一言を言い放った。

「も、もう、静雄さんの大好きなチョコレートケーキ、作ってあげませんからね!」

うわあああああああ、言って…しまった。
わかってたことだけど、周りの人たちの、何言ってんだこいつという雰囲気がばしばし伝わってくる。けれど効果は絶大で、静雄さんは相手から奪ったであろう金属バッドを落とし、その場にカランという音が響く。
そして小さく舌打ちすると、少しいじけたみたいに「わかったよ」と言う。
マジかよという声がして、僕も顔を真っ赤にするしかなかった。顔から火が出るほど恥ずかしいが、これが一番効果があることを僕は知ってるので仕方がない。いや、一番っていうのは嘘で、他にも二度と手をつないであげない、キス一週間おあずけ等々隠しだまはあるのだが、人前で言えるわけがなく、限界ぎりぎりの手がこれなのだ。
ちなみに、臨也さんとの争いでは、この奥の手を出さざるを得ない。
それはまた別の話で。
嘘のようにおとなしくなった静雄さんに、周りはまだどよめくばかり。みんなが見守る中、静雄さんは僕の肩に手を回して、耳元でささやく。
「そう言うからには、今日家来いよ。食いたい」
「…はい」
いや、家にお呼ばれするのはかまわないし、寧ろ嬉しいけど僕は思う。今夜、またネットでは物凄い速さでまことしやかなうわさが広まるだろう。今度はどんな尾ひれがついて語られるのだろうか。
暫くはネットをつなぐのに覚悟がいるかもしれない。そう思いながらも、僕は静雄さんの手を引いてその場をあとにした。