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ながさせつや
ながさせつや
novelistID. 1944
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球体と遭遇する

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(……丸。まるくて、オレンジ…)
 大人の男の小脇に置くにはアンバランスなオレンジの球体。気になる。気になる。超気になる!
「お兄さん、それなにっ!?」
 とっさに手が出て、見知らぬお兄さんのジャケットをつかんでいた。背が高い外人さんはびっくりしたように肩をはねさせると、ゆっくりとこちらを振り向いて、苦笑しながら、それ、って? と呟く。目の色は確かに日本人ではないきらきらした色をしていたが、言葉が通じてほっとした。
(英語だったらマジわかんないっ)
「……あー、ハロか」
 尋ねられた問いに答えるより前にお兄さんはオレンジの球体を示した。コクコクと首を縦に振ると、彼は俺の相棒かな、と笑った。
「ハロってゆうんですか?」
「そうそう、ハロ」
「なんなんですか? なにができるの?」
「えー……喋るかな」
「喋るの!?」
「うん」
「ハロ、シャベル、シャベル!」
「ぅわっ」
オレンジの球体……いや、ハロは、いきなり左右のフタらしき部分を耳みたいにパタパタとさせて声をあげた。
(しゃべって、る! マジでか!)
「ハロぉ、大人しくしてな」
「ちょ、お兄さん、ハロ触っていい!? 返事は聞いてない!」
「え?」
お兄さんからハロを奪って、眺め回す。オレンジのてかてかつるつるな表面が気持ちいい感じ。目がぴかぴかと点滅しながら耳(だよね。耳の中に手足があったけど! マジかわいー)がパタパタしていた。
「ハロ、マジすげーっ! お兄さんこれいくら!?」
「や、売ってないから……」
「うそーっマジ欲しいのになっ! もったいない! 可愛いっ! 名古屋すごい! 名古屋神秘だね! お兄さん名古屋人?」
「ロックオン、名古屋人、チガウチガウ!」
 ハロが答えてくれた。電子音の繰り返し音声が妙に愛らしい。お兄さんにはアンバランスだけど、ちっさな女の子が持ってたら似合う。白いワンピースに麦藁帽子で、ハロ持ってたらいいよねっ!
「ロックオン? あ、お兄さんの名前かぁ。かっこいいねっ! 俺、水谷ってゆーのね、よろしくっ」
「水谷くん、か」
「文貴って呼んでもいいよ。お兄さんはロックオンさん? お兄さんのが呼びやすいな…お兄さんで!」
「ああ、うん、いいけど」
「でもハロマジ可愛いな。俺、名古屋初めてだけどラッキー! コアラいないしどうしようかと思ってたんだけどさ、ハロのがいいなっ」
腕の中で器用にハロがくるくると回る。ファンが暖かだ。
「コアラ? 動物園にいるだろ?」
「動物園分かんなかったから! だって名古屋の駅の周り、ビルしかなくてさぁ……地下鉄も分かんなかったからとりあえず適当に来てみたの」
「ふぅん……えっと、地下鉄で東山線の東山公園に、動物園あるぞ?」
名古屋の簡易地図がパラリと出てきて、お兄さんは教えてくれた。動物園にはコアラマークがついていて、コアラがそこにいるのは一目瞭然だった。
「ホントだ! わ、お兄さんありがとっ! 行って来るっ」
「気をつけてなぁ」
「お兄さんもハロのこと大事にねっ」
ハロの天辺をもう一度撫でてから、お兄さんに返し、俺は地下鉄の駅に走った。ハロのバイバイ、とゆう声が可愛いくて、にやにやしながら地下鉄の階段を駆け降りたら、下から三段目を踏み外した。カラン、とカバンからこぼれた自分の携帯電話がハロと同じオレンジ色だと気付いて、幸せな気持ちになった。
(あ、写メさせてもらったら良かったなぁ…また今度会えたら、させてもらおっ)
 お兄さんの髪の毛の色は俺のに少し似ていた。将来きっと、あんな風になるんだーと、また幸せな気持ち。




作品名:球体と遭遇する 作家名:ながさせつや