素敵なプレゼント
リースやガーランド、キャンドルや小物が飾られた暖炉には、炎が暖かく燃えている。
赤と緑でコーディネートされた部屋は居心地がよかった。
ガラスのオーナメントが吊り下げられたクリスマスツリーは、その光を受けてキラキラと輝いている。
冷たい窓の外には雪がチラチラと舞い降りて、きっと明日は、本当のホワイトクリスマスになるだろう。
―――そして自分の目の前にはドラコがいた。
リラックスした表情でハリーが作った料理を堪能している。
ワインを飲み、相手の腕前を褒め、流れてくるクリスマスキャロルに耳を傾けていた。
彼らが付き合い始めて、もう半年は経ったはずだ。
今では毎週末の約束をしなくても、ドラコがハリーのフラットへ泊まりにくる間柄だった。
「時々君の料理をごちそうになるけれど、こんなに美味しい本格的な料理まで、フルコースで作れるなんて、君は本当にすごいな」
ドラコは感嘆の声を上げて首を振る。
「……いや、それほどでもないけど」
ハリーは口の端を上に向けて、小さく笑った。
実を言うと本当はかなり手間隙をかけた力作だった。
ドラコをイブの日に招待と決めた日からメニューを考え始め、ハリーは仕込みにとても手間暇をかけていた。
本当ならどれだけ頑張ったか、相手に面白おかしく話すはずたったのに、今のハリーはそんな気分ではなかった。
またため息が漏れそうになり、慌てて口元を引き締める。
目の前のドラコは蝋燭の明かりの中、とても魅力的に映っていた。
シルクのような金髪も、白い肌も、薄くて形のいい唇も、優雅な身のこなしも申し分ない。
イブの夜に彼は完璧だった。
本当だったら、その美しい相手と心ゆくまで楽しい会話をするはずだったのに。
ハリーは自分の不甲斐なさに激しく落ち込んでいた。
メインデッシュが終わりその皿が下げると、覚悟を決めたようにハリーは椅子から立ち上がった。
キッチンからリボンのかかったこげ茶色の小箱を持ってくると、相手に差し出す。
「君へのクリスマスプレゼントなんだ」
「ありがとう。―――ここで開けてもいいかな?」
「ああ、いいけど……」
言葉を濁す相手にドラコは気付かず、楽しげにリボンをほどいていく。
ふたを開けると、ドラコから感嘆の声が漏れた。
「すごい!きれいにココアでコーティングされたチョコレートじゃないか。しかもたくさんある。とても美味しそうだ。ありがとう、ハリー」
ニッコリとドラコはご機嫌に笑う。
ハリーは肩を落としたまま、全く逆の言葉で答えた。
「僕は君にすまないと思っている」
予想外の相手の言葉にドラコは戸惑った顔を見せる。
「―――どうしたんだ、ハリー?」
ハリーは首を振った。
「本当はこんなはずじゃなかったんだ。せっかく君と過ごすはじめてのクリスマスだったのに。素敵で完璧なクリスマスに僕はしたかった。一生に一回しかないのに、僕はそれを失敗したんだ……」
「―――失敗したって?」
ドラコが驚いた顔で尋ねてくる。
「本当なら今日、君にチョコレートといっしょに指輪も贈るはずだった。君の瞳とよく似ている水色の石が入った素敵なものを、このチョコレートの真ん中にあるカップに入れて君にプレゼントする予定だったのに、―――その指輪が間に合わなかったんだ」
この世の終わりだという表情で肩を落とし、ひどく落ち込んでいた。
「間に合わなかったのか?」
「そうなんだ。指輪をオーダーメードにしたんだけど、クリスマスシーズンは混んでいて間に合わないと昨日連絡が入ったんだよ」
「それはいつ届くんだ?」
「精一杯急がしてもあと三日はかかる。………ああ、もし出来上がったとしても遅い。もうクリスマスには間に合わない。せっかくのとっておきのクリスマスプレゼントが―――」
ハリーはさえない顔のまま俯いた。
ドラコはそんな落ち込んでいる相手をじっと見詰めると、おもむろに立ち上がりテーブルを回り込みハリーの側に立った。
そうして上体を前に傾けて、「ハリー」とやさしく名を呼んだ。
その声の柔らかさに顔を上げると、美しい水色の瞳がじっと自分を見詰めているのが分かった。
「ありがとう、ハリー。君はなんて気が利いているんだ」
そう言って相手の首に両手を巻きつけると、体を摺り寄せてくる。
急に抱きついてきた相手を受け止めながら、ハリーは意味が分からないという表情で瞬きをした。
「―――えっ、どういう意味?」
ドラコはそのままスルリと身を滑らし相手の膝の上に腰を下ろすと、横向きのまま抱きつく。
「僕はトリュフは大好きだし、それが君と恋人になったきっかけだから尚更好きだ。そしてもちろん遅れて届く君からの指輪も嬉しい」
愛おしそうに目を細め、相手の髪を撫でた。
「今年は素敵なプレゼントが二度も届くなんて、クリスマスが二度もやってくるようなものだ。ああ……、とても嬉しいよ。ありがとう、ハリー」
ふたりのあいだに暖かなやさしい空気が満ちてくる。
見上げた彼らの頭上にはヤドリギが吊り下げられていた。
ドラコは目を細めると微笑み、その木の下で自分からキスをする。
柔らかなそれが重なると一瞬ハリーは目を見開いたけれど、すぐに幸せな笑みが浮かんできた。
唇を離しふたりは見詰めあい微笑み合うと、ふたたび何度も唇を重ねる。
彼らの背中越しに、くつしたが吊り下げられた暖炉からパチリと木のはぜる音が上がった。
クリスマスにヤドリギの下でのキス。
それは、今も昔も、永遠を誓う恋人たちのものだった。
――Merry Christmas――
■END■