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ながさせつや
ながさせつや
novelistID. 1944
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春待ち

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 美味しいシュークリームのにおいに誘われて辿りついた先に、キャラメル色を濃くしたふわふわの髪の毛の男の子が、鮮やかなペールグリーンの芝生に寝転んで眠っていた。まだ肌寒い日々は続いているが、しかし、穏やかな陽光がこぼれるているこの公園は昼間のうちなら昼寝に十分だろうと思う。シュークリームのにおいは近くに置かれたバスケットからだった。丁寧に編み込まれた模様編みのバスケットは、乙女趣味ではあったが、ロマンティックな寝顔のこの少年には似合いだろう。
 小さな姿の僕は、バスケットの陰になるあたりに近寄ってどうやってシュークリームを頂こうかなぁと算段する。シュークリームの香ばしく甘いにおいが、腹ペコな胃に痛い。転がるように旅をして、幾分、僕は疲弊しているように思った。
 すずめはチュンチュンと楽しげに芝生の上を跳び跳ねる。春告げ鳥はまだうるわしい鳴き声を聴かせてはくれないが、しかし春のようなキラキラとしたパウダリーな光は空気をやわらかく、風はあでやかなうすみずいろに木々を揺らし、彼の美味しそうな髪の毛も揺らしている。
 刹那、彼の瞳が開かれアーモンドに似た茶色の瞳がオレンジに似た太陽光にさらされつるりと輝いた。

「あれ」

 すらりと伸ばされた腕は正しく空を切り、バスケットの陰から僕を引きずり出した。くびねっこをひょいと持ち上げ、バスケットのギンガムチェックのチーフの上に乗せられた。足元にシュークリームがあると思うとなんだか落ち着かなかった。

「白いな……ぬいぐるみ?」
「ココだココ」
「!」
「お腹が空いたココぉ」
「……喋った…しかも腹ペコとか…」

 感動する……と呟きながら、彼はチーフをめくりシュークリームを取り出した。パカリとシューを割り裂いて僕にずい、と差し出し、へにゃりと崩れた笑顔で食べなよ、と言った。
 僕は本当に疲弊し腹ペコでどうしようもなくて、とにかく口をつけた。カスタードはふわりと甘く、シュー皮にまぶされた塩がおいしい。

「ありがとうだココ」
「ココっていうの?」
「ココだココ」
「……白いなぁ…ふわふわ」
「……ココ?…」

 疑問なく僕に接する彼が単純に純粋なのかなんなのか。気味悪がるなんてことなく僕の首辺りを懸命になでまわして遊ぶ姿は面白い子だな、と新しい人種との遭遇にうっかり興味津々になってしまいそう。
 シュークリームをいくつか頂いて、最後のひとつは彼が半分こにしてくれた。つるりと全て食べ終わった僕が彼がまだ食べているのをじぃと見つめていたら、どうぞ、と最後ひとくちを笑って差し出してきた。人が良すぎてかわいそうなくらいになつこい子であった。ありがたく、人差し指と親指から最後のシュークリームを頂く。指先についた甘いカスタードをきれいに舐めてからありがとうだココ、と笑顔を返したら少しくすぐったそうに背中を揺らしてどういたしましてっと返ってきた。
 シュークリームを創ったのは彼のお母さんであることや、僕が友人を探している途中であること(彼は半分泣きながらナイトメア許せないっと言っていた)などを話し、俺は高校で野球頑張るからココも頑張って! と言われ別れた。シュークリーム食べたくなったらまたおいでよ、とは実に曖昧な社交辞令。しかし彼は本気そうであったから、嬉しいココ、と伝え、僕も本当に嬉しいと思っていた。

(そういえば彼の名前はなんだろう)

 わからないけれど、春告げ鳥が鳴く頃に神様が呼べばきっと、また会える。はずだ。

作品名:春待ち 作家名:ながさせつや