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古泉一樹の憂鬱(腐注意・X'mas!おまけ)

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X'mas!(キョンハル) のおまけ。
※腐向け注意報。






「……はあー……」

家までの道のりをゆるゆると歩く。ほんとに、こんなキャラをいつまで続けなければならないのか。
先程まで一緒だった男との会話を思い出して嘆息した。そりゃ自分だって本来の素を出して生活したいに決まっている。
しかしこれも、涼宮ハルヒを見張るため、そばにいるため、仕方のないことなのだということも十分に理解していた。
納得して、理解して、受け入れた、何ランクも下の学校に来ることも、このキャラを貫き演じ通すことも、SOS団という活動に参加することも、何もかも。
それに、いまとなってはむしろその活動も楽しいと感じることができるようになっていたし、悪くない生活だと思っている。
それでも、こんなに晴れない気持ちになるのはひとつ。たったひとつだけ、受け入れ難いことがあるから。

「嫌になるなあー……」

首からぶら下がる白いマフラーを見て、ひとりごちた。

いつからだろうか、この胸の奥のほうでずっとざわざわとしていて、思考の邪魔ばかりする厄介なものがうまれたのは。
いつからだろうか、彼の傍にいることを、心地いいと感じるようになったのは。

最初は、ただ涼宮ハルヒに選ばれた人間だから、という理由だけで接していた。
次は、同じSOS団員として。では――今は?

彼はなんとも不思議な人間だ。決して特別お人よしだとか、なにか特出するところがあるわけではないのだが、一緒にいるとどこか居心地がいい。
適当に聞こえる相槌も、逆にこちらとしては話しやすかったし、変にまじめなところも面白みがあった。
いつの間にか彼と一緒にいることを好んで、そして、見せつけられる現実に落胆する、そんな自分になっていた。


物思いにふけっていると、びゅっと冷たい風が吹いて、マフラーが半分ほど飛ばされかけてあわてて掴んだ。
重たい雲が垂れこめていて、ただでさえ暗欝としている気持ちに拍車をかける。


皮肉なものだ。そんな彼は、きっと涼宮ハルヒを求めていて、そして彼女も。宇宙人でも未来人でも超能力者でもなく、ただただ普通の人間として、彼が自分の傍にいることを望んだ。
あの涼宮ハルヒが選んだ人間なのだ、存在だけで不思議で、面白くて、そして惹き寄せる力をもっているに決まっている。
だからこそ、自分は惹かれた。しかし手に入らない。
では、涼宮ハルヒがいなかったら? 愚問だ。
そうすれば、彼とは出会うこともなかった。
ああ、もしかしたらもといた学校で、もっと家柄もよくて頭もいい、素敵な人と巡り合えたかもしれない。そうすれば、それが男だろうが女だろうが、自分は幸せになれたはずだ。
……しかし、もう、出会ってしまった。惹かれてしまった、知ってしまった。彼を。この気持ちを。

出会っても手に入らない辛さと、出会わずに他の人と過ごす幸せと、どちらがいいのかなんて、そんなもの、選べるわけもない。


さっさとこのキャラを脱ぎ捨ててしまえたらどんなにいいだろう。
本当の自分を見せてもきっと彼は、“それも、お前なんだろう”と言ってくれるに違いないのだ。
けれどいまは、そんな優しさがただ、痛い。





降り始めた雪から身を守るように、マフラーに顔をうずめて、彼を想った。





(そうして奪い去ってしまえたら、どんなにか、)