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きみこいし
きみこいし
novelistID. 14439
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恋を知るまでは<後編>

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―――とはいっても。
もともとサワダツナヨシは小心者で臆病なのだ。結局は逃亡に徹することもできず、ヴァリアーのアジトをうろちょろと駆け回った挙げ句、食堂の片隅で足を抱えてちっこくなってたりする。
(うう、なんだよ。これ、なんで、こんな心臓が痛いんだよ。もうだめだ。不整脈とか洒落になんないっての。オレ、とうとう心筋梗塞で動脈硬化の脳梗塞で、そんでもって緑の血とか「がはっ」って吐いて、死んじゃうんだぁあああ)
ぐすぐすと涙目で、壁に向かう姿は非常に情けない。とてもじゃないが、部下には見せられない。だが、ツナヨシにしてみれば切実な問題なのである。
相変わらず、ドッゴン、ドッゴンと心臓は好き勝手に跳ね回ってくれるし、思考はズルズルと深みにはまっていく。
(ああ、短い人生だったなぁ。思えば中学を卒業してからロクなことなかったし。抗争だのアヤシイ薬の摘発だの、ごっついおっさん達に囲まれた会合だの・・・そういや結局、京子ちゃんとも進展なかったし。こんなことならイイ感じになったあの時、告白しとけばよかったかなぁ。っても、すぐハルとか獄寺くんたちが突撃して、ムードも雰囲気もブチこわしなったしなぁ・・・)
などと、ブツブツと唱えるツナヨシは非常に薄気味悪い。そこはかとなく辺りにはダークなオーラが漂っていて、陰気で不気味な光景である。

そこに。
「あら~ん、ツナちゃん?何、浮かない顔ねぇ。悩み事ならこのルッス姐さんが相談にのってあげるわよ?」
と、ティーセットを片手にヴァリアーの自称・お母さんにして、こと恋愛関係にはめざといオカマ、ルッスーリアが入ってきた。
「うぅ……ルッスーリア、どうしよう、オレ、もう終わりだ」
「へ?どういう事かしら?」
「オレ、オレ、ザンザスを見ると不整脈がおさまらないんだっ!!」
「は?」
『もうだめだぁああ!やっぱり、オレ、このまま血吐いて死ぬんだぁ』などと半狂乱で騒ぐツナヨシに、ルッスーリアは一瞬ポカンと動きを止めたが、はたと我に返ると、ツナヨシの背中を陽気にバシバシと叩きはじめた。
「いてっ!ちょ、やめ、ルッスーリア!!」
「もう、やだわぁ~!この子ったら」
「ちょ!オレ、重病人なんだよっ」
悲鳴をあげるツナヨシに、ルッスーリアはうふっと微笑むと宣言した。
「あなたはいたって健康体よ。この<晴>のリングホルダーにして、ヴァリアーのお母さんである、ルッス姐さんが保証するわ」
「え?じゃあ、このドッゴン、ドッゴンってなってるのって……」
「もう、やだわ~この子ったら、ノロケちゃって!そ・れ・は、恋に決まってるでしょ☆」
「……は?」
「好きな人を見るとドキドキしちゃう☆なんて。ん~照れるわねぇ~」などとクネクネと形容しがたい不思議なダンスを踊りながら、彼(彼女?)は、何をあたりまえの事をと、豪語してくれる。

―――――こい。コイ。来い。濃い。鯉。故意。恋=Love?

「・・・・はぁ!?恋ぃぃいいい!?」
脳裏に点滅するその言葉に、そのツナヨシは驚愕する。
あの男に抱く感情をあげるなら、『恐怖』『ムカつき』『諦観』とかだろう。よりにもよって『恋』だとは!!天地がひっくり返ってもアリエナイ。
「うはははは!ナイ、ナイ、ナイ」
「そんなこと、ないわよぉ~好きな人を前にして、胸が高鳴るのは、恋する乙女の証拠」
「いやオレ、男なんですけど」
「あら~ん、恋に男も女も関係ないの」
「あのさ、言ってること支離滅裂なんだけど」
「もう、あげ足ばっかりとって。まったく、煮え切らない子ねぇ・・・ボスが好きなら好きでいいじゃない?」
「なっ!」
まったく、何を言ってくれているのだ。
そんなハズはない。確かに、ザンザスの側にいると、落ち着かないわ、なんだかソワソワするわ、あいつのムカつく視線が気になるわ、心臓は痛いが。
だからと言って、そんな、まさか。
ぐるぐると渦巻く思考に、あわふたと焦るツナヨシだが。そのツナヨシに、
「おい、ドカス。てめぇ、さっきは……」
いきなり背後から(それも当然のように気配を絶って近づいているので本当に心臓に悪い)、当の本人に声をかけられ、ツナヨシは文字通り飛び上がった。
「ひぃ!」
おそるおそる振り向けば、予想に違わず、やっぱりご本人様が、相も変わらず不機嫌、無愛想な顔で立っていらっしゃって・・・・・

『ボスが好きなら』

ザンザスを視認したとたん、なぜか脳裏にルッスーリアの言葉が浮かんで。ぼっ、と瞬時に耳まで赤くなったツナヨシは、頭から湯気を吹き出し、
「う、わぁぁあああああーーーーー」
これまた逃亡を再開したのだった。
「あ、てめぇ。待ちやがれ!」
「こっち来んなぁああああーーーー」
にぎやかかつ物騒に繰り広げられる追いかけっこを背景に、ルッスーリアは呑気に呟いた。
「ま、お空もよく晴れて。今日もいいお天気だこと。お洗濯物日和だわぁ~」
そうしてルンルンと足取りも軽く、食堂を後にした。
世界は、今日も平和である。


――――こい、コイ、恋?
オレが、この男に?そんなこと、ぜったい、すっぱり、きっぱり、あるハズがない。
だから、この心臓の痛みも。鼓動の乱れも、気のせいだ。
気のせいだったら、気のせいだ。
ダダダダと回廊を駆けながら、ツナヨシはしつこく自分に言い聞かせる。ジタバタと足掻いて藻掻いて、この期に及んでも往生際わるく、かたくなに、最後の砦にしがみつく。
けれど、それも―――― 恋を知るまでは。



END.