こらぼでほすと カラオケでごー2
「こんばんわー」
いつものように明るい声で扉を開いたのは、その噂のマリューだった。
「いらっしゃーい、マリューさん。」
「こんばんわ、キラくん。ねぇ、ムウから聞いたんだけど、この間、カラオケ大会をやったんですって? 」
「うん、おもしろかったよ。マリューさんもやります? 」
「ええ、ぜひっっ。指名は、ムウでお願いね。でも、みんなにおもしろいもの見せてあげるわよーーーうふふふふふ。」
キラの差し出した手に、自分の手を載せて、マリューは陽気に笑っている。あーこれは、またバレたんだなあーと、付き合いの長いキラには、その見せ掛けの笑顔の裏が見えていたりする。
幸いというか、本日は予約客は、マリューのみだったから、ホールに大画面を持ち込んで、全員でカラオケに興じることになった。手馴れた様子で、マリューが、三曲チョイスして、「さあ、ムウ、歌ってちょうだいっっ。」 と、有無を言わさずに、マイクを手渡した。
「なあ、マリュー。浮気ってさ。朝まで飲んでただけだぞ? やらしいことも、エッチも、何にもない清らかなデートしかしてないって。」
「はいはい、わかってるわよームウ。だからね、私は客で、あなたは、ホストだからっっ。歌・い・な・さ・いっっ。」
うわぁー本気全開で怒ってるよー、マリューさん。 と、残りのホストが軽めに引いている。男前な性格のマリューが、これだけ怒りマークを、こめかみにつけているんだから、誰も逆らえない。いや、普段の行いが悪い鷹への制裁というものに興味津々だったりする。キラくんは、ここよ、と、マリューは、キラを隣に呼び寄せて、頭を撫でつつ、ロックのバーボンを、水みたいに飲んでいる。
「・・・あー・・信じてくれよー・・・・」
情けない顔で、マイクを手にしたムウだが、画面に出た文字と曲に、顔色を変えている。
「・・・私は・・まっちぃのぉーおそうじおーばーちゃーん~毎日、元気に仕事するぅ~」
全員、え? という顔で、その歌を聞く。あんまり知られていない歌だ。ラストには、「きれいなぱんてぃ~はいてみーたぁーいっっ。」なんて、歌詞まであって、それを、ムウは歌っているわけで、かなり笑える。そして、すかさず、次の曲。なんと、フォークの名曲「神田川」だ。
「ちいさなせっけん~カタカタなぁったぁ~」
「「「「ぶっっ」」」」
似合わない、あの飄々とした男が歌うには、あまりにも似合わない曲だ。さらに、三曲目、今度は、台詞入りだ。
「ガキの頃は、おぼえちゃいないが、ここじゃかなり有名だったぜ。髪の長い女だったさ。・・・・あんた、あの子のなんなのさ?・・みなとのよーこよーこはーまよこすかぁー」
ものすごい選曲だ。似合わないオンパレードだっっ。
「ねーねー、マリューさん、マリューさんは歌わないの? 」
キラの反対側で座っていた悟空が、ムウが床にへたりこんだのを鑑賞した後に尋ねた。
「そうねぇー。たまには、派手に歌おうかなあ。 」
と、入力したのは、「りんりんりりん」 で始まる有名な歌。
「あなたぁがすーきっ。死ぬほどすぅーきっ。この愛受け止めて欲しいよぉ~」 と、これまた、なんと三蔵に向かって歌っている。で、よせばいいのに、三蔵が、投げキッスとかしているので、鷹には余計にダメージだったりする。
「なんで、さんぞーって酔っ払うと、ああ、誰でも口説くんだろうなー」
保護者の酔態に、悟空は呆れているが、まあ、本日は、エロい台詞もないから、見逃すことにはしたらしい。
「やっぱり、日頃の鬱積したものが、こういう時に出るんでしょうねぇ。一応、三蔵は、高僧ですからね。」
容赦はない八戒も、スルーはするが、言いたいことはいっとけ、ということで、感想だけは吐いた。
「あのさぁー、あんたら、そう思うなら止めなさいよ。」
自分は良識派だと思っている悟浄が、その二人を嗜めているのだが、聞いちゃいねぇーのは、いつものことだ。マリューは、さらに、「メイクアップシャドウ」 「天城越え」を、熱唱して、席に戻ってきた。
途中休憩に、ディアッカが「帰ってこいよ」 を、エア三味線で歌い、イザークが、「マイレボリュウション」を爽やかに歌って、場を繋ぐ。その間に、他のものは、軽く飲んでいる。年少組のふたりは、シンデレラとレモンスカッシュのノンアルコールと、食べ物だ。
「キラくんは歌わないの? 可愛いのお願い。」
横で、ご機嫌でフルーツ盛り合わせ(もちろん支払いはマリューだ)を漁っていたキラに、マリューがマイクを渡す。キラは、悟空に声をかけて、「UFO」を振りつきで、ご披露する。きめポーズまできっちりと踊るし、また、これが可愛いのだから、フロアマネージャーが、メロメロと言った様子で眺めているが、そこは、さらっとスルーする。
さらに、ハイネが、「優しい悪魔」を、ダコスタとアスランを巻き込んで、振りつきで歌い踊る。
さんざんに、そうやって盛り上がって、床に座り込んでいる鷹に向かって、また、マリューがマイクを差し出す。
「さあ、ムウ。仕上げに、『つっぱりハイスクールロックンロール』か『大阪ストラット』か『僕わらっちゃいます』か、どれにする? 」
「勘弁してください、ごめんなさぁーいっっ。」
きっちりと正座で土下座した鷹は、哀れだったが、大変おもしろい見世物だった。さすが、男前っっ、と、マリューの株が上がったのは、言うまでもない。
作品名:こらぼでほすと カラオケでごー2 作家名:篠義