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夜と猫とアルコール(英中)

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・英中
・喧嘩控えめ


「なにやってるあるか、こんなところで」
「おまえをかっ拐ってやろうかと思ってな」
「寝言は寝てからいうよろし。てめぇにくれてやる体なんて持ち合わせてねぇあるよ」
「ほう? 抱かれた日にはイイ声、聴かせてくれるのになぁ?」

夜も深まって、道には人っ子ひとりいないような時間。中国で開かれた世界会議が終わり菊と久しぶりに呑んだ帰り、いささか自分でも呑みすぎたかとふらふらしながら家にたどり着くと玄関に夜には少々目立ちすぎる金髪が立っていた。
無視を決めむ、そうすることもできたはずだったのだが、酒と菊によっていつもより気分がよかったせいだろう。家に入るのに邪魔だったのもあり、結局声をかけたのだが、……やっぱり間違いだったらしい。

「黙れ下衆が。下半身しか脳のないやつあるね」
「おいおい、素直に認めたらどうだ。それにせっかくEUから中国まで来たんだ」
……相手しろよ。

ふと距離を詰められて避ける間もなく唇を塞がれた。そのまま不遜にも舌まで入れてくる。
……ここで好きにさせてなるものか。

「っ……!」
「はっ……ざまあみろある」

生意気に荒らしてくる唇を噛んでやった。
一瞬驚いて引いたアーサーのそれに血が滲んでいる。

「……やってくれるじゃねぇか。なかなか懐かない猫も好きだが、オイタが過ぎると、」
「――ッ!」

ドンっと勢いよく壁に押さえつけられ、視界いっぱいに広がるのは爛々と光る翡翠色。暗闇のせいか、抜けるような白磁の肌に張り付いた真っ赤な唇に目を奪われる。不敵に笑んだそれの自分で付けた傷から滲み出る紅にひどく気分が高揚した。

「……なんだっていうある?」
「――仕置きだ」

そのまま反抗の言葉も呑み込むように深く口付けられる。唾液が交わると微かに鉄錆の味がして貪るようにその傷を舐めた。いよいよ自分もおかしくなってきたらしい。

「ふ、んっ……」

どれもこれもすべてアルコールのせいだ。でなければこんな酔狂なことを誰が。

「はっ……な、このまま夜の宴といこうぜ」
「……残念ながら、てめぇに出す酒も肴もねぇあるよ」
「ふん、心配ご無用、ここにあるので十分さ」
「気色悪いこと言うなある、おだてたって領土はやらねぇあるよ」
「つれねぇなあ」

そのままさも楽しそうに笑んだ男にまたなし崩しのようなキスをうけて、いい加減立っているのが面倒、というよりは辛くなってきたところでふわふわした頭が、もういいか、と思ってしまったのはやっぱりアルコールのせいだ。それともこいつは口内に阿片でも仕込んでいるのだろうか。

奪った吐息で溶けそうな熱を生む口づけに根を上げたのはどちらだったろう。上がった息もそのままに折り重なるようにして玄関を開けてなだれ込むと、そのまま横抱きにされる。

「はなせ阿呆! 何のつもりある!」
「猫は黙って運ばれてろ」
「死ね阿片! 誰が猫か!」

どんどんと相手の肩口を殴りつけてやったがアルコールと酸欠で結局自由を得るまでには至らず(さすがに青痣くらいはできただろう)、たどり着いた寝室のベッドに放り投げられた。
勝手に家を歩き回るな眉毛!

「何言ってやがる、勝手知ったる猫の家、だろ」

死ね……!
本気で殺意が湧いたがそれも束の間、再び降ってきた唇にすべて呑み込まれて、悔しいのであとでお望み通り猫よろしくめっためたに背中を引っ掻いてやろうと心に誓った。



(だいっきらいある)
(かわいくねぇ猫)