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葎@ついったー
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die vier Jahreszeite 007

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なんとなくその場に立ち尽くしていると,しばらく後,水が流される音がしてドアが開いた。

「…あの」
「今度は何だ」
「手を」
「手?」
「洗わないと…」
「あー,手な。そっちが風呂場だけど…とりあえずこっちだな」

台所へ案内してやり,蛇口をひねってやる。
が,当たり前だけど手が届かない。
どうしたもんか,と途方に暮れると,チビも困ったように俺を見上げた。

あー,ハイハイ。わかりましたよっと。
仕方なしに俺はチビの背後に回ると両脇の下に腕を突っ込んでひょい,と抱え上げた。

「届くか」

尋ねるとこくん,と頷く。
鼻先を擽るのは冬の夜の匂い。
絹糸みらいにさらっさらの髪に染み付いてしまった匂いだった。

「…お前,どんだけあそこで待ってたんだよ」

石鹸をつけて丁寧に手を洗うガキに聞いてみる。
ガキは考え込むように手を止めると,「暗くは,なっていたと思う」と応えた。

「寒かっただろ」

腕の中で小さく頷く姿を見ると,俺は腹の中に苛立ちが湧くのを感じた。
なんでこんな小さいガキひとり置いていったんだ?
俺が留守だってのはわかってたはずだろ。
だったらなんで帰るのを待つとか,一旦引き上げるとかしなかったんだよ。
罵ってもどうせ届かない。
それはわかっていたがでも腹の底で煮えるような苛立ちはどうにもできなかった。

「…ありがとう」

小さな小さな声。
腕の中で身を強張らせているせいか,その声は微かに震えていた。
俺ははっとなって慌ててガキを床に下ろす。
抱え込んだ俺が無意識に漏らした舌打ちを聞きつけてしまったらしい。
ガキは怯えたように,困ったように,それでもじっと俺を見ていた。

「…あー,別にお前にしたわけじゃねぇからな。舌打ち」

何で俺が弁解なんて,と思ったが,今にも泣き出しそうな顔をされるとそう云わずには居られなかった。
さらっさらの髪の下,澄んだ青い目がじっと俺を見つめている。
どこか,懐かしいその色。

懐かしい?
俺の目玉は冗談みたいな真紅で,親父の目玉は……記憶にない。
母さんのならなんとなく覚えている。深い深い,青色。
でも,それとも違う色だ。
もっと澄んでいて,淡い感じがする。
だったら,なんで――?
記憶を探るように見上げてくる二つの目玉をじっと見つめた。

ぐうううううう。
それは微かな音。でも確かな音。
自分からでなく聞こえてきたのは,それでも自分にも馴染みがある,身体が空腹を訴える音だった。
俺を見上げるチビの顔がかぁ,と赤く染まる。
目を逸らしたと思ったら俯いて,もじもじと身じろぎした。

「…メシ,まだか」

尋ねると,身じろぎを止め,ほんの少し間を空けた後こくん,チビが頷く。

「うどん,食えるか?」

少し間を空けた後,こくん,また頷く。
俺は手を伸ばすと,俯く小さな頭にそっと触れた。
イヤマフが少し邪魔だったが,それをずらさないように撫でてみる。
びくっと強張った身体が,くしゃりくしゃりと髪を梳くように撫でていると少しずつ掌の下で弛緩していった。

「あっち行ってな。温かくなったらそれ取っていいぞ」

チビは俺の手の下からまっすぐに俺を見つめると,口の端っこをほんの少し綻ばせて笑った。
それは俺が初めて見る,チビの,ルートヴィッヒの表情だった。