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月1でクラブチームが開催する、選手とそのファミリー、パートナーを招いてのBBQは心地よいざわめきと盛り上がりを見せている。
選手が普通の男子になったり意外な才能―――炭火をうまく扱えたり食材のいい焼き加減を知っていたり、を知るのも楽しい。
タツミは紙皿からパプリカをとって口に運ぶ。
イングランドではほぼ毎週末BBQだったのを思い出しながら。
食べることに関してざっくりなあの国では、切った食材を焼くだけという食事はとても好ましく受け取られている。
実際日本のようにあまり品種改良をしていない野菜は味が濃くて美味しく、肉は下手をしなくても誰かがつぶしてすぐ持ってきてくれる場合さえあった。
そんなところで、何年もいてサッカーをしてきた。


「たっつみー」
「ジーノ」
ここにいたんだと言いながら隣のいすに座ってくる。
「ジーノの彼女、相変わらずキレイだな」
「そうだね。彼女じゃないけど」
「あれそうなんだ?」
「先月の子とも違うよ」
「基準がわかんないけどそんなもん?」
「そうだね。ねえコッシーの奥さん。いい女だね」
「うん。相変わらず」
監督肉食ってますか。いい感じっすよと言いながら世良がてんこ盛りの肉を紙皿に積んでくる。
もちろんクーラーから出したばかりのビールと共に。
「あ王子は自分で取ってきて下さいね。っていうか彼女さんが探してましたよ」
「あー戻れジーノ。先月?こないだみたいな騒ぎは大変だから」
「違う子だから平気だよ」
「キレイに決まったっすよね。あのビンタ」
「思い出させないでくれる?」
そういえばそんな面白いことがあった。
その場の全員がアクシデントではなくエンタメだなとかさすが決まるねとかいう感想の。
「なんか日本語じゃないのでばーって言って、そのままばっちーん行きましたからねー。浅草がイタリア市街に変わったひと時でした」
やってるほうも見せる目的だから必然でそうなる。わぁオペレッタだよとか言う声もして、きっとジーノも女の子も満足だっただろう。
「セリー」
ぎゃははと笑いながら世良が騒ぎの中に戻っていく。
「それでねたっつみー」
「んーどうした?」
焼きたての肉とビールは至福。
「たっつみーは、自分から人を好きになったことはあるのかな」
「あ?」
「イイ夜だね」
寄ってきた虫をぱちんと叩き落す。
「なんて言ってひっぱたかれた?」
「キレイな言葉じゃないよ。イタリア語だから」
「美しいけど上品じゃない国だってのは知ってる」
ごくごく。そしてもぐもぐ。
「それで話なんだけどたっつみー、流されるだけの恋してない?」



「ゴトーさんにもコッシーにも、行動に出られたからそうなったよね」
「よね?」
ちゃんと片眉だけ上がっているだろうか、自分は。
「たっつみーは自分から恋したこと無い。違うかな」
「かなって。そろそろこの話止めねぇ?なんでこのタイミングでその話かも解んないし、このまま聞いてると俺はウチの司令塔に口説かれるんじゃないかって心配しそうだ」
こんなに人がいるところでガチ話も無いだろうと、タツミは高をくくったのだが。
「なら話は早いね。口説いてるんだよ。もっとストレートなほうが好きだった?」

本気でわからない。

「回りくどくても嫌だね。ほら自分の女のとこ戻れ。今度は叩かれるついでに頭からビール飲むことになるかも」
ソードみたいにまっすぐ長い、けれどエロくない脚がこちらに向かっている。ストレートでつやのある髪はこの暑いのに背中を覆っていて。
「ジーノ。うの・びるら・じぇんなーろ・ぽるふぁぼぉーれ」(ねージーノ。あたしにビール取って)
その言い方に、すねたような響きがあって可愛い。
「ほらもう行け。ちょうどビール飲みたそうだ」
「そうだね。ところで解るんだねたっつみー」
「日常会話程度はねー。この商売だとラテン系も割と必須だろ」
ひらひらと手を振って、自分も立ち上がる。そこで思いつく。
「し・ぴっりあの・ぴうもすけ・いんうーな・ごっちぇら・でぃみえーれ・えいん・ばりーれ・だちぇーと」
(ハエをたくさん捕まえるなら、樽入りのヴィネガーより一滴の蜂蜜が効果的)

イタリア野郎が素敵なタルトゥフォを嘗めたような顔をして。

「ハエとか言うなんて、たっつみーって面白いね」

お前ほどじゃないともちろん思う。

「もちろん蜂蜜だけボクは舐めてあげるよ。だから考えておいて」
「話進めるとこじゃねーぞ」
「たっつみーからせがむようにしてあげる」

展開が意外すぎてビールに苦味。
でも。

自分はアジア系を見たことすらないような小さな町でも生き延びて来たから。

「う゛ぁふぁんくーろ・あれ・えすあ・それっら」(妹とファックしてろ)

ジーノはさらに、にっこり笑う。

「口が悪すぎるね。似合ってないことも無いけど」


これを、本気でどうだって良くて忘れたのに。






視線というか、アピールを感じるようになった。
これで練習に身が入っていなかったり抜けたことをやらかしたりしたら注意してやれるのに、ジーノはそんなヘマはしない。
けれど何か仕掛けてくるようなことは無くて、練習が終わった後はゴージャスな女の子がちゃんと来ていてジーノに飛びついたりしている。
その子はタツミにも笑いながら声をかけたりするから、タツミは普通にゴトーのところでゴハンにしようかなどと手を振りながら考えたりする。
なのになぜ、監督としては年が若いほうだけれど年上の―――大抵監督は年上だろう―――を口説こうとするのかが分からない。
最近はゆとり様のおかげでいろんな縦社会が崩壊しているけれど、他のスポーツとサッカーは感覚が少し違うところがあって、上下関係とかカースト制度が元々ほぼ無い。
だから先輩に向かっての口調がたとえば野球などからしたら大問題というかそれ以前なモノだったり。

監督に面と向かってバカと言えるのは、日本ではサッカー以外ではなかなか通用しない。サッカーでも別におススメしている訳では無いが。
だからジーノは、びっくりするくらいキレイな女の子を連れ歩いて普通の子にもきゃあきゃあ言われて、をやってたらイイのにとタツミは思う。
30過ぎの監督を口説こうとしているなんて、別意味でびっくりだ。
それに多分、自分にはゴトーが居るしとも。

社会貢献のため以上に、ヒトとして誠実なオトコが。






                                     

                               続く

作品名:seal / 1 作家名:るか