【臨帝】さよならの雨/赤・抜粋
【純粋な誓い】 血染めのベール
炎の中で『折原臨也』が帝人を見つめる。
「帝人君、君は、君はずっと死にたくなかったんだろう?」
「そうですね。でも――」
「俺を失ってまで生きていたくないって? そんなに俺が好き? それとも、一人が嫌なのかな? 同じことだよね。この世界にもう君の知り合いはいない」
「死んだわけじゃないです」
「でも、会いに行ける? 見たくないだろ、友人の不幸な姿なんて。信じるっていう言葉で現実から目をそらしているんだ。泣かないでいいよ。俺は帝人君を傷つけたりしない。絶対に」
臨也は帝人の目元に唇を寄せる。舌先で涙を舐めとって微笑む。赤く染まる世界。熱が空気を歪ませた。
「終わりから始めようじゃないか。俺は君を放したりしない。どんな世界だって変わりなくね」
汚れた帝人をシーツでくるんで臨也は窓の外へ飛び出す。
木の枝は折れて、したたか身体を打ち付けはしたが命に別状はない。葉や木の形状のせいだろう。ちょうどクッションになる。臨也に抱かれた帝人はほぼ無傷だろう。
「僕は、これから」
「結婚し直そう。もう一度新婚旅行でも行こうじゃないか」
「海外逃亡ですか? 臨也さんは、僕を」
「許さないよ」
臨也の言葉に帝人は目を伏せる。
「でも、愛してる。君の希望も絶望も嘆きも痛みも悦びも」
他の男の雄の匂いに吐き気がしたが飲み込む。
「許さない許さない許さない。帝人君を穢した奴もそれを見て楽しんだ奴もみんなみんな許さない」
「臨也さん……」
「そうだね、俺のことも許さない」
瞳に狂気を宿らせて臨也が断言する。自分との決別。
「この世界を、俺が作り出した世界を壊し尽くして行こうと思う。一緒に来てくれるだろう? 花嫁さん」
「臨也さんがそれを望むなら」
シーツ越しに臨也に抱き締めらた帝人はこれからどうなるのか知らない。ずっと以前から色んなことが分からなくなっていたから帝人は全てを臨也に預けた。
それが、依存と呼べるものだとしても臨也は「夫婦なら支え合うのが当たり前だよ」と笑っていたので良いのだと開き直った。縋りついた。何も失いたくなかった。
常に失い続けていたにもかかわらず仮初の生活を求めた。
無知ではない。無垢でもない。愚直ではあった。
「新しい誓いをあげよう。帝人君を傷つけない約束を」
「甘ったるくて嫌になる言葉ですね」
涙が量を増やして流れていく。
嗚咽を臨也は抱き締めた。優しさをこめて。自分の手の中に確実にある温もりが尊い。零れ落ちることのない確かなもの。人の形をした永遠。臨也が欲しかったもの。そのためなら観察欲も投げ捨てる。
「全部、すり潰して、殺し尽くして、壊し尽くす」
帝人は泣きやまない。きっと本当はもっと大声で泣きたいのだろう。ずっと流していた涙を隠していた。
「許せない許せない。帝人君は俺のなのに」
「はい、臨也さんの物です。臨也さんも僕の物です」
「結婚してるんだもんね。運命共同体だ。偽物じゃなく」
「ほんもの?」
「そう、これから俺達の世界が始まるんだ。帝人君と俺のためだけの世界。作り変えて塗り替えて、二人で楽しもう」
泣きながらも微笑む帝人に臨也は口づける。
「愛してるよ」
「もっと、いっぱい」
「キスを? 愛を?」
「何もかもを」
帝人の返答に臨也は満足げに頷く。
「帝人君は俺のだね」
「そうですよ。知らなかったんですか、旦那様?」
笑う帝人に臨也は満足した。
この世界の『折原臨也』のことなど知ったことではない。
自分こそが世界の全て。臨也は世界を塗り替える。
他に
【純白の花嫁】 赤の首輪
【飼い主と子犬】 主人と忠犬
【怠惰の鳥籠】 絶望の上塗り
【小鳥の揺り籠】 平穏な日常
【盲目の契り】 新たな門出
おまけなのでページ数は少ないです。
作品名:【臨帝】さよならの雨/赤・抜粋 作家名:浬@