【Marriageシリーズ 2】静寂な朝
高いような低いような濁りのない声で、とても軽やかに響いてくる。
「……―――うん……」
その声に気付き、小さく呟き、寝返りを打つ。
シーツのサラサラとした肌触りがとても気持ちよかった。
まだ頭はぼんやりとして夢うつつで、このまま再び眠ってしまいそうになる。
差し込んでくる柔らかな朝日が閉じた瞼の裏側で光が踊り少し眩しいけれど、それすらも心地よかった。
軽いハミングは少し調子ハズレで、音程がちょっとズレでいるのが楽しい。
誰に聞かせるつもりでもなくて、ただ普通に口をついて出たのだろう。
よく聞いてみると、ラジオから流れている音楽に合わせて歌っているらしかった。
―――それでもやっぱり半音はズレている。
ハリーはクッと眠りながら笑った。
(ちがうよ、ドラコ。そこはそうじゃなくて、もうちょっと低いんだよ)
などと言いたいのだけれど寝ているから、ただのニャムニャムとした意味のない呟きになってしまう。
何か大きな布を広げたような、シュッという音が聞こえた。
そして椅子を動かす音。
ケトルが沸騰したときに上がるピィーッという笛に似た高音。
ポットに湯が注がれるコポコポという音が続いた。
チンと鈴の音と共に、香ばしい匂いがただよってくる。
(ドラコはオーブンの使い方が苦手だから、いつも薄くスライスしたパンを真っ黒に焦がすんだ。今度、トースターを買わなきゃな。ついでにトースターでいっしょに目玉焼きも作れるものがあるから、それにしょうかな)
などどハリーは頭の中でメモを取る。
そう思いながら、またふたたび深く眠ってしまいそうになった。
まるで雲の上をフワフワと歩いているような気持ちよさだったからだ。
柔らかなルームシューズの音がこちらへと近づいてきて(これが野暮な革靴の音じゃないことが素敵だろ?つまり相手はリラックスしている証拠なんだ)、シーツ越しに肩を揺すった。
「もう朝だぞ。いつまで寝ているんだ」
まるでさっきのハミングの続きのような声で、呼びかけてくる。
日差しが暖かくて天気のいい日曜の朝で、美味しい匂いに包まれて、素敵なメロディーが耳元に響く。
顔を覆っていたらシーツをめくられて、ほほを撫でられた。
くすぐったさに首をすくめつつ、すこしヒヤリとした金属の感触に目を開けると、相手の薬指が光っている。
それを見詰めて、ハリーは目を細めて微笑んだ。
(―――ああそうだ。そうだったんだ)
ハリーはくしゃくしゃの巻き毛のまま、無防備な仕草で相手を抱きしめると、ドラコのほうから腰を折り、自ら顔を寄せて唇にキスをしてきた。
驚き口を開きかけたら舌を差し込まれて、中を舐められる。
ブルネットに指が絡まり、繊細な指先で髪にブラシをかけられた。
ドラコの舌が相手の舌を濡らすために内側をこするように舐めると、ハリーは塞がれたまま、うっとうめき声を上げる。
ドラコのキスで唇を捕らえられて、心まで溶かされてしまいそうだ。
ハリーは、ドラコのキスは甘酸っぱくていい匂いがして、それを味を味わうように彼の唇をなめて、満足そうに頷く。
「今日の朝食のデザートは、アップルパイ?」
「ああ、そうだ。薔薇はテーブル中央に飾ったし、カブのスープもあるぞ。どうだ、完璧だろ?」
ドラコが得意満面にウインクすると、ハリーははっとした顔で「しまった!」と声を出して顔をしかめた。
「何か落ち度でもあるのか?」
不安げに眉を寄せると、
「惜しい。もうちょっとで完璧だったのに。ああ惜しかった」
ハリーが悔しがる。
「何が足りなかったんだ?」
ドラコが首を傾げた。
ハリーは顔を上げて、意味深な声で悪戯っぼく、こう宣言したのだった。
「新婚なら、君に丈の短いピンク色のハートの形のエプロンを着てもらいたかった。
――――もちろん裸でっ!!」
■END■
*新婚の初日からこれでは、この先どうなるのでしょうか?
背中が痛くなるほど激甘で、ハリーは幸せバカですね、まったく!
でも、このドラコなら、悪ふざけに乗ってくれるかもしれません。
作品名:【Marriageシリーズ 2】静寂な朝 作家名:sabure