悲しみに暮れているあなたを愛する
灰色の雲は次から次へとこちらへ流れてきて、止む気配は一向に無い。
傘をさしているのにもかかわらず雨水が跳ね、こちらにかかった。
アイスの入ったコンビニの袋をかさかさ揺らしながら一人ぼんやり歩く。
帰ったら残ってる課題やらな、あー帰りたないわーなんてつぶやいてみた。別にそれで何かが変わるわけでもないけれど。
と。
視界の端にちらりと映った黒い服。その姿に見覚えがあった。
雨の中傘も差さずに立ち尽くす姿が少し悲しそうに見える。
どうしたんやろ。
「せんせ?」
思わず声をかけた。ぴくりと反応して振り向く同い年の先生。
その顔が泣いているように見えて、びくりとした。多分、雨で顔が濡れているからそう見えただけなのだろうけど。
「志摩くん、どうしたんです?」
「どうしたはこっちのセリフですよ、せんせ。俺はちょっと買い物行った帰りですわー」
コンビニの袋を持ち上げて言う。奥村先生も食べます?なんて言ってみたら、いいえ結構ですと返ってくる。
ですよねえー、と笑ったら少しの沈黙が訪れた。
「そんな濡れたら風邪ひいてまいますよ」
耐え切れなくなって先に口を開いたのは俺。
いいんです、と言った先生が痛々しく見えて何も言えなくなった。
黙って傘を先生のほうへ傾ける。自分より背が少し高いから、腕を少し高く上げた。
「奥村くんですか?」
やっと口を開けるようになって、出てきた言葉がそれだった。
先生は驚いたように目を見開く。
どうしてです?いや、先生の様子見てたらわかりますよ。
「だってせんせ、いっつも奥村くんのことみてはって。保護者みたいですやん」
せんせは、相当奥村くんのことが好きなんやね。
少しだけ先生の顔に朱がさした。
じく、と何かをえぐられるような気持ちになったのは多分奥村先生のことが好きだから。
少し背伸びをして、口をつける。
先生は驚いたように目を開いたままで何も言わなかった。
「俺、先生のことが好きなんですわ。せやから、甘えてもらってええんです」
一人でしょい込んじゃあきまへんよ。
そう言ってひらっと手を振る。
傘を預けて、寮のほうへ歩き出した。
―どうせ奥村くんには勝てへんよ
―俺は二番でもええんや
―リンドウ―悲しみに暮れているあなたを愛する
作品名:悲しみに暮れているあなたを愛する 作家名:如月ヒメリ