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スタートラインに立つまでの話

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1

平介の事は大好きだ。
けれど、恋愛の面においては少し邪魔だ。

「おい、…平介何でここを間違える!?」
「んー…、不思議だねえ。」
「不思議だねえじゃねーんだよ、このアンポンタン!」

勢いよく平介の頭に向かって教科書が振り落とされる。よほど痛かったのだろう痛みに声にもならぬ声をあげて悶絶する様子に思わず笑みが漏れた。

「留年しないように頑張んなきゃ。」
わかっちゃいるんだけどなー、と相変わらずな様子で返す平介にやっぱりまた笑みが漏れた。

やっぱり平介は好きだ、友人としても一人の人間としても面白いし一緒にいて心地いいとも思う。作るお菓子は美味しいし、この友人としての距離間も好きだ。
けれど、やっぱり。

(鈴木が平介ばっかりなのは嫌だな。)
平介にかかりっきりの鈴木の横顔を見る。鈴木の顔は相変わらず平介ばかりを見つめていて、俺がいるのに見向きもしてくれない。
かまって欲しくて鈴木の分の平介が作ってきたマドレーヌを口に含んだにも関わらず鈴木は見向きもしてくれない。

(つまらない)
平介の作ってくれたマドレーヌを食べたのにもかかわらず、鈴木は平介に夢中だ。
もそもそと口の中でゆっくりと水分を奪っていくマドレーヌの甘みが今はどこか憎らしくてしかたがなかった。


平介を嫌いと思えたらどれだけ楽なんだろう。
平介を嫌いで鈴木が好きだとはっきりと口にすることが出来たらどんなに良いだろうか。
(ああ、せめて鈴木が平介と同じくらいの程度に俺を考えてくれたら。)

「難しいねー。」
「あ?」
「ううん!てかまた平介の家で勉強会しようよ。俺、アップルパイとか食べてみたい。」
「お、良いよー。」
「お前、また逃げんなよ。逃げたら今度こそ…。」
「さ、帰ろうかー。」
「話を聞かんか!」

2,

(鈴木だ)
廊下の先に良く知る人を見つけた。自慢ではないが鈴木を見つけることに対しては自信がある。かつて狂犬と言われていたのは伊達ではなく、鈴木に対して妙に鼻がきく。

(あと平介のお菓子にもすぐ気がつくか。)
なにやら一人らしい鈴木のちょっと曲がった背中に勢いよく後ろから抱きついて行った。

「すーずき!」
「うお!」
(あれ?)

「鈴木って前から思ってたんだけどちょっと声高いよね。」
「はあ?」

隠してる?と笑えば、きっと睨みつけられてしまった。

鈴木の声はいつも小さくてどこかひそんだ様な話し方をする。けれど、例えば平介に怒鳴る時、時々声のトーンが乱れてしまうのを必死に整えている所を何度か見たことがある。

(隠さなくて良いのになあ。)
ひそんだ様な声も好きだけどさっき聞いた声も好きだと思う。

「平介には言うなよ?」
「なんで?別に平介のことだから何とも思わないと思うけど。」

ぶっきらぼうに吐き捨てられた言葉に思わず取り繕わない本当の事を返してしまえば鈴木の顔は歪んでしまった。

「何でも良いから言うなよ?」
「言わないよ、大丈夫。」
にっこりと笑えば鈴木の顔はどこか気まずそうに反らされてしまう。

(傷つけるつもりはなかったんだけどな。)
つい、言ってしまった。平介にばれたくない事が俺にバレても何も思ってはもらえない事実と鈴木の顔をそんな風に歪ませる事が出来るのが平介だけだという事実に耐えられなかったのだ。

(平介を通さなきゃ俺の言葉も、もしかしたら鈴木には届かないのかもしれない。)
それはなんて。

「鈴木。」
「あ?…っ!何しやがるって、お前…。」

初めて触れた唇は何の味もしなかった。
殴られると思った反射的に上がった鈴木の手は俺に触ることなく落ちていった。

「何、泣いてやがる。…何で、泣いてんだよ佐藤!」
わからない。
「わからないんだよ。」

何でキスしたかもわからない。
そして何で俺が泣いているかのも分からなかった。
とにかく痛くて、苦しくてこのキスが明日からどんな影響を与えるのか分からないわけではないのに、体は勝手に動いてしまっていた。

どうにか浮かべた笑顔は涙でゆがんでけして笑顔とは言えないものだったろう。

「助けて、鈴木。」

きっとこの涙を止める事が出来るのは鈴木だけなんだ。