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好きだから、【虎兎】

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ねえ、知ってますか?

唐突につぶやかれたその言葉に虎徹は頭上に疑問符を浮かべた。
自分のバディである彼はきちんと物事を考えてから声に出す方なので突然の質問なんてとても珍しい。

「兎って、さびしいと死んでしまうんですよ。」

乾いた唇からぽつりとつぶやかれた言葉は世間一般でいわれる迷信であった。
それなのになぜか真実味を帯びて聞こえるから不思議である。
それだけ彼はそのことを本当のように思っているのだろう。

「なに言ってんだよ、それ迷信だって知ってるんだろ?」

苦笑いを浮かべながら机に顔を突っ伏している彼に目をやる。
いい年をして子供のようだ、と思ったけれどなんとなく今の彼はぐらぐらと不安定に見えた。
先ほどの虎徹の言葉に対して返答は無い。

「つーか、突然すぎ。一体どうしたってんだよ」

彼のつむじが見える正面の位置まで距離を縮めて、そのきらきらとしている金髪を撫ぜる。
その間「うー」とか「あー」とか小さなうめき声が聞こえてきてつい笑いが漏れてしまう。
これじゃあ本当に大きな子供だ、そう思った。

「兎はどういうときに寂しいって感じるんですかね」

机に突っ伏したままの状態でまた疑問を投げかけられる。
彼にしては珍しく声が震えているように思えた。

「さあな、俺は兎じゃないからわかんねえけど、」

俺の目の前にいる兎は今現在そういう状況なんじゃねーかな、と言葉の後半を飲み込んだ。
その瞬間、ぐっと前に身を引かれる。
バーナビーが虎徹の胸倉を掴んで自分のほうへ引き寄せたのだ、彼の鮮やかな金色は虎徹の胸板に押し付けられている。

「いま、しんでしまいそうです」

か細く呟かれた声、ぐりぐりと胸に押し付けられる頭、強く握りしめられた手。
その全てがとても愛おしく思えた。

「俺が死なせやしねえよ」

そう一言だけ彼の耳元で囁いて、かすかに震える頭ごと彼を抱きしめた。
一歩一歩と彼のやわらかな心の内側に近づいていっている気がしていた。


作品名:好きだから、【虎兎】 作家名:藤村