締まらない話
会議は今日も踊っている。
ただ、いつもの纏まりのない騒ぎ方ではない。
そう、この会議場にいる国の化身たちは一つの問題を抱えている。
発端は、そう島国カップルの片割れの一言だった。
「結婚?していますよ。」
この一言に、一瞬だけ全ての時間が止まった。
『えぇぇぇぇぇっ!?』
そして、耳をつんざくほどの絶叫がその場を満たす。
「ヴェー、菊もアーサーもなんで言ってくれなかったの?」
水臭いなぁ。
と、お人好しのフェリシアーノを皮切りに各国が祝の言葉を続ける。
「おぉっ!遂にって感じだね。おめでと」
「あー、ごほん。・・・おめでとう。」
「なんでそんな大事なこと黙ってたのさっ!?式に呼んでくれればよかったのに」
「おめでとうございます。」
「まったく、次にこんなことあったらコルしちゃうからね?」
「ん、おめでとう。」
「ちくしょ-眉毛!菊を不幸にさせたら許さないあるよっ」
「めでたいのである。」
ほとんどが、なぜ早く知らせなかったか?という内容に少し苦笑して爆弾発言を落とした張本人である島国カップルの片割れ本田菊は口を開く。
「皆さん、ありがとうございます。でも式は、挙げてないんです。だから、お呼びできなくて・・・
それと、呪うのはやめてくださいね?イヴァンさん。それと、耀さん。私がアーサーさんを幸せにしますから。」
なぜだろう、明るい話のはずなのに菊と隣り合った席に座るカップルのもう一人アーサー・カークランドの顔色が優れない。
元から白い肌は、紙のような白さを通り越して少し青みがかり、肩や唇がわなわなと震えている。
その、場に不釣合な様子にどうしたのかと腐れ縁のフランシスが不振そうに声をかけるより先にアーサーが席を立った。急に勢いよく立ち上がるものだから、グラスに注がれていたアイスティーが倒れてアーサーの席周辺にある机上の書類は大惨事だ。
「きいて、ねぇよ。」
足は、立っていることさえやっとなのか今にも崩れそうで、弱々しい声は震えている。
「アーサーさん?」
心配した菊が声をかけるが、
「きいてねぇよそんなのっ!」
怒声で返される。
「どうし、」
「おまえ、そんなに俺が嫌いだったのかよ」
菊の問いかけに被せるように、アーサーが自嘲の笑みを浮かべつつ吐き捨てる。
「何を言ってるんですか?」
「だって、俺おまえに・・・ぷっ、プロポーズとかした記憶ないしっ」
「しましたよ。」
「してないっ!菊の嘘つきっ!もういい、おまえなんかっ大っ嫌いだばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
叫ぶが早いか、アーサーは踵を返し会議場から脱兎のごとく駆け出した。
「お馬鹿さん、会議はまだ」
「そこかよっ!」
「って、おーい菊ちゃん?追わなくっていいの?あいつ」
「大っ嫌いって、大っ嫌いって、アーサーさんが私に・・・」
よほどショックを受けたのか菊が俯く。
「菊、気を落とすことなんかないある。ほら、菓子でも食うよろし。」
「そうだよ、菊が気にすることなんか」
そう、優しく声を掛ける兄と友人の声に応えず彼女は
ゆらぁり、そんな表現が合うかのように席を立った。
「本田?」
「大丈夫であるか?」
「っ、はは!あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
いつもの冷静な人格からは考えられない哄笑にさすがのAKYも驚いた。
「ど、どうしたんだい菊!?」
「はっ!仔兎が言うじゃないですか。」
ヒイィィィィィ
誰だったのか、或いは全員だったのか引き攣るような音がした。
「こえーある。菊が菊じゃねぇある。こんなの菊じゃねぇある。」
「ヴェ、ヴェーーーーーーーーーーーー」
「ばか弟、な泣くなっ!こ、怖く何か・・・ちぎぃーーーーーーーーー」
「結局お前も泣くんかいな。にしても、こんな菊ちゃんはじめてやわ、」
「感心している場合かっ!」
「大っ嫌い、大っ嫌いねぇ、ふふふ本当にどこまでも可愛い方だ。そんなこと言われたら、余計に燃えてしまうじゃないですか。」
「きく?」
「ちょっと、兎刈りに行ってきますね?」
う、兎刈りぃぃぃぃぃ!?逃げて、超逃げて眉毛!
全員の考えていることは只一つだった。
バタン
会議場の重厚な扉が締まる音が嫌に重たく響いた。
「行った?」
「行ったある。」
「なんか、あれだな」
「普段大人しい人がああいうことやると迫力が違うね。」
「でも、さ」
「あぁ、」
「最後に見えた不敵な笑は」
『男前だったな(よね)。』
言動は物騒だったが、
―――――――――所変わって―――――――――
「もうっ!なぜ、逃げるのですかっ!?」
「はぁ、はっ、そんな血走った目で見られたら誰だって逃げるわ!」
アーサー・カークランド狩られるか喰われるかの瀬戸際である。
「うふふふ、そうですね、せいぜい一杯逃げてください。そうでなくちゃ、面白くありません。」
「っ!?」
その時だ、突然アーサーの目の前に妖精さんが現れて、それを避けるためアーサーは左へ体を傾けた。
「うあぁぁぁ、あれ?痛くない?」
「~~~っ痛」
「菊!?」
どうやら、スライディングして受け止めてくれたらしくアーサーの下から菊のうめき声が聞こえた。
「まったく、アーサーさんはドジっ娘なんですから」
「いや、娘じゃねぇけど・・・」
「そうですか。」
退こうと、アーサーが腰を上げれば菊の両腕がアーサーの体に絡みつき阻まれる。
「なに、」
「逃げないでください。」
「―――っ、べっ別にキュンとなんかしてないんだからな!?ばかぁ」
「嘘おっしゃい。」
しばらく、甘い空気を堪能したあとでハッとした再びアーサーが話を蒸し返す。
「浮気とか、するくらいなら振ればいいだろっ!」
「だから、してませんて。」
「じゃあ何で、結婚とか」
「え?アレは違ったのですか?」
「だから、アレってなんだよ!」
「我が家の、古式ゆかしい方法に法ってでは?」
「は?」
「だから、言葉を素直に言えないあなたが私の所の古い婚礼の義を行なったのではないのですか?」
「はぁぁぁぁぁ!?」
「三日、男が好きな女の家に通い同じ枕を共にするんです。」
「それだけ?」
「大雑把にいえば、」
「なんだよそれっ!」
「いや、それはこちらのセリフですよ。」
なんとも締まらない話だ。