お楽しみはこれからだ。
年齢にしては慎重すぎる期間をおいて、ようやく。
ようやく、今日、シズちゃんがウチにお泊りです。
やった! 俺、良く我慢した! 頑張った!!
キスもろくにさせてもらえないような照れ屋かつ破壊的な、
ツンばっかりでほとんどデレがないシズちゃん相手に
ようやくここまで持ち込んだ俺の手腕をほめていただきたい。
というわけで、ごはんも食べたし、お風呂も入ったし。
あ、もちろんお風呂は別々でした。
残念ですが、お楽しみはこれから、ということで我慢した。
でもなあ、シズちゃんのことだから、
このまま『お休み』とか言って寝ちゃうんじゃないだろうか。
ううん、それはあり得るくらいあり得る展開だ。
シャワーを浴びながら、俺は少しだけ悩んでしまった。
けれど、俺が風呂からあがると、シズちゃんは
ものすごく緊張が伝わるような神妙な顔つきでソファに座っていた。
ああよかった。一応心構えはあったんだ。
シズちゃんにどの程度予備知識があるかわかんないけど、
とりあえず『そういうつもり』で来てくれたことが分かって俺は安心した。
けれど、シズちゃんは。
いつものごとく俺の予想のはるか上をかっとんでいった。
「縛ってくれ」
え、ちょっと待って。
今から何するかわかってる上での発言ですか。
なに? 初めっからソレ? シズちゃんそんなディープな趣味が!?
混乱する俺をよそに、もう一つシズちゃんは付け加えた。
「できたら口もふさいでほしい」
シズちゃんは神妙かつ真剣なうえにものすごく顔が赤い。
なんかいろいろ考えて考えてきちゃったんだな、ってことが分かった。
考えてきたってことは、それだけ俺のこと考えてくれたってことで。
それはうれしいんだけど、どうしてそういう結論になるのかな。
「・・・・・・力加減が」
難しい、とシズちゃんは言いました。
ものすごく重たくなってしまった口をこじ開けて聞くに、
ようするに気持ち良すぎて力が入り過ぎたら困る、ということらしかった。
ついでに声も抑えられないと恥ずかしいから、口もふさいでほしいって。
シズちゃんはそのまま爆発するんじゃないかと思うほど顔を赤くしている。
なにこの人可愛いんですけど。
声が出ちゃったら恥ずかしいって、出ちゃうのは当然だと思うというか、
それが聞きたいからこっちはいろいろ頑張るわけで。
それだけシズちゃんが気持ちいいんだな、って俺は思えるんだけど。
それから縛ってほしいってことは、俺のこと傷つけたくないからなのかな。
聞いても素直に答えてくれそうにないけど、たぶんそういうことなんだろう。
それって俺のこと考えてくれてるってことだよね。
っていうか、今までずっとそれを考えてて慎重だったってことなのかな。
だとしたら俺ってものすごく愛されてない?
まあだからと言って『ハイそうですか』とうなずけるわけもなく。
縛ったり口ふさいだりってもっと先でいいじゃん!
あとの楽しみにとっておこうよ!
・・・・・・と言った俺はシズちゃんにものすごく冷たい目で見られました。
だって初めてでそれじゃあアブノーマルすぎるでしょ。
シズちゃんの気持ちはわかるけどそれだけは譲れないね。
そんな感じでしばらく会話は平行線だったので、俺は妥協することにした。
「じゃあさ」
「・・・・・・なんだよ」
「力が抜けるほど気持ち良くしてあげるよ」
「・・・・・・」
「それから、声が出そうなら」
「・・・・・・」
「俺がずっとキスしてふさいでてあげる」
だから大丈夫。
シズちゃんは呆気にとられたというか呆れたというか何とも言えない顔をして。
それから。
「おまえって」
「シズちゃん?」
「ホント、馬鹿」
そう言って笑ってくれた。
よかった。
そんなに緊張されたままじゃ、気持ち良くないよね。
やっぱり二人で気持ち良くならないと。
まあ、そんなわけで。
「シズちゃん」
「・・・・・・」
「続きは寝室で」
軽く口づけると、シズちゃんの手をとって俺は寝室へ向かった。
夜はまだ長いし、すべてはこれからだからね。
作品名:お楽しみはこれからだ。 作家名:774