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涼風 あおい
涼風 あおい
novelistID. 18630
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お願いだから思い出さないで

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俺はただアイツが、今度こそ幸せな人生を送れればいいと思ってたんだ。
理不尽じゃない人生。
神を恨み神に抗う必要のない人生。
ただ、普通の女の子として、普通の人生を歩んでくれればいいと。


俺があの死後の世界のアレコレを思い出したのは、小学生の頃大山に出会ったからだった。
戦線で共に戦った仲間、初期のメンバー、ルームメイト、特徴がないことが特徴。
出会うまではお互いその頃の記憶は持ち合わせていなかった。
出会ったら、思い出してしまった。
あんな別れ方をしておきながら、意外とあっさり再会するんだなと二人で笑った。
その後何人かと再会したが、やっぱり笑った。
笑うしかなかった。
でもその笑いは誰ひとりとして心から可笑しくての笑いじゃなかった。
そりゃそうだよな、あの頃の記憶を取り戻したということはそういうことだ。
だからアイツには絶対会いたくなかったんだ。
そして、誰にも会わず、ただの女の子として生きて欲しかったんだ。

なのに、そんな俺の願いはいとも簡単に敗れた。
高校入学のクラス発表で、アイツの名前を見つけてしまったからだ。
せめて他のクラスならよかったのに。他のクラスなら避けることもできたのに。どうしてよりにもよって同じクラスなんだと俺は深い溜息をついた。
60億分の1の確率が、この俺の人生で何度起こるんだ?
俺は同姓同名な別人であることを願わずにはいられなかった。

入学式の日、教室に入るとすでにアイツが座っていた。
隣にはアイツの親しい友達らしい見知らぬ女の子がいる。
ああ、やっぱりアイツなのかと落胆する。
ため息をついて目線を上げてみれば、アイツと目があった。
しまった――。
再会した瞬間に思い出す奴もいれば、少ししてからそういえば…という感じで思い出す奴もいた。
だからこの瞬間にアイツが過去を思い出したかどうかはわからない。
できれば後者であって欲しいと願いながら、俺は目線を外し、何食わぬ顔でさっさと自分の席へ向かった。
少なくとも、さっきの様子からして、今日まであの記憶を思い出すような出来事はなかったようだ。
「ねぇゆり、今の人かっこよくない?」
そんな声が背後から聞こえてくる。さっきアイツと一緒にいた女の子らしい。
「またアンタは…。さっきからソレ言うの何回目よ」
「だってホントのことだもーん!このクラス絶対レベル高いって!きゃー!高校生活、楽しみだわっ」
「程々にしておきなさいよ…ひとみ」
「もー!ゆりはときめかないの!?花の女子高生だよ!?彼氏作って放課後デートとかしたくないの!?」
「興味ないわ」
「ゆり、モテるくせにそうやって断り続けてるんだからー…。試しにコクってきた誰かと付き合ってみればいいのに〜」
「試しにってアンタね…。あたしに彼氏ができようが出来なかろうがいいじゃない。アンタと同じ人好きになるよりマシじゃない?」
「うっ…ゆりと同じ人だったらアタシ絶対勝ち目ないわ…。でも、ゆりとWデートするのは諦めてないからねっ!」
普通の女の子らしい会話にひっそりと微笑む。
そうやって、普通の女の子として暮らして欲しかった。
普通に青春を謳歌して、恋愛して、いつか結婚して、子供を産んで…幸せな人生を送って欲しかった。
でも、そんな人生に影を差したのは俺だ。
再び出会えた喜びより、アイツが過去を思い出してしまったんじゃないかという恐れの方が大きくて、アイツをまともに見ることができなかった。
もしまた目があって、その時アイツが笑っていたら――?
今まで再会してきたアイツらのように、痛みをこらえて笑っていたらどうする?

入学式の間も、HRの間も、アイツを避けて過ごした。
別段関わるような出来事はなかったので、避けると言っても俺がアイツを見ないようにしていたくらいだ。
1日の日程が全て終わり、解散となると俺は教室から―アイツから―逃げた。

下校する人々の流れから離れ、屋上に出ると、春の暖かな風が頬を撫でた。
これからどうする―?
同じクラスでも全員と関わるわけじゃない。それなら1年間ずっと関わらないようにして過ごせばいいのだろうか?
柵に肘をついて、早速できた友達と笑いあいながら帰る生徒たちをぼーっと眺める。
「神様っていじわるだな…」
溜息をつきながらしゃがみ込み、柵に頭を軽くぶつけた。
ギィ…
錆びた金属の擦れる音がして振り返る。
「久しぶりね、日向くん」
ああ…やっぱり思い出してしまったのか…。
きっと避けられないとは薄々わかっていた。それでも俺は僅かな可能性を信じたかったんだ。
「ああ、久しぶり、ゆりっぺ」
「何よ、浮かない顔して。そんなにあたしに会うのが嫌だったわけ?避けまくるほど嫌だったってわけ!!??」」
ゆりっぺがドスドスという音が聞こえそうなほどの勢いでまっすぐこっちに向かってくる。
「え、ちょ…まてっ…痛っ」
制服の胸元を掴まれると、柵の手すりから上半身が外に出る。
「おおおお落ちる!!落ちる!!!落ちるから!落ち着けって!!!!死ぬ!」
下校中の生徒に聞こえるんじゃないかと言うくらいの声量で訴えると、一度きつく睨みつけ、ようやく手を離してくれた。
「あのなぁ…今は不死身じゃないんだからな?死ぬぞ?」
「んなのわかってるわよ…」
乱れた制服を軽く整え、隣で頬杖をつくゆりっぺを横目で見やる。
「なんでそんなに怒ってるんだよ」
コイツは笑っていなかった。
今まで出会った奴らは大抵笑っていたのに、コイツは、怒っていた。
「なんで避けたのよ…?」
俺の問には応えず、問が返ってきた。
ゆりっぺの目は俺を見ていない。どこか遠くを見たままだ。
なぜって…
「どうせ辛い記憶を戻させたくないとか思ってたんでしょう?」
俺の返答を待たずに、ズバリ言い当てた。
なんでわかったのかとびっくりしてゆりっぺを見る。
すると今度はゆりっぺの大きな目が真っ直ぐ俺を睨んでいた。
「バッカじゃないの!?」
「へ…?」
「あたしはあんな過去の記憶、気にしてないわよ。過去は過去。あの時のあたしは今のあたしとは別モノじゃない」
ゆりっぺの瞳は揺るがない。
「過去なんて関係ない。今生きているあたしは、あたしの人生は、今のあたしだけのものよ。あたしは過去に捕らわれたりしないわ」
そう言い放ったゆりっぺに、あの頃の、戦線のリーダーだったころのゆりっぺが重なる。
そうか、俺は、俺達は、過去に捕らわれていたのか―――。
「ははっ……相変わらずゆりっぺはつえーな!」
ゆりっぺの頭を乱暴に撫でる。
なにすんのよ!と怒られても、俺は手を離さなかった。ゆりっぺも無理に止めさせようとはしなかった。

今の俺達はただのクラスメイトだ。だだちょっと昔縁があっただけの。

「じゃ、改めてよろしくな!クラスメイトのゆりっぺさん?」
「ええよろしく。クラスメイトの日向くん」

痛みなんてない、心からの笑顔で、俺達は笑いあった。