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【FY】血が巡りて人に至る

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「……っんとに、悪い……」
 震える腕が抱き付いてくる。脱ぎかけのシャツがぼんやりと月明かりに浮かんで、金の双眸が揺らめいて光る。
「先輩」
 痙攣でもするように細かく震える頬へ唇を寄せる。あ、と反射的に声を漏らした口から零れ見える白いものは人間の歯にしては尖りすぎていた。犬歯にしたって先が細いそれは、一般的には牙と言ってよい。
「こんな時ばっか、オレ……お前に……」
 日頃異常なまでにセーブされた彼の吸血衝動は、性欲によってその姿を垣間見せる。だからこそ、副都心は有楽町へ執拗に触れるようにしていた。彼が温もりを求めたがるように。彼が血を吸いたがるように。
「副都心……」
 ひく、と眼前で有楽町の細い喉仏が上下して、そのまま首筋へとすり寄るように頬を押し付けられた。彼が動かないよう、自分が動いてしまわぬよう、膝の上に抱えた有楽町の腰へ回した腕へ力を込める。
「あんま痕見えないようなとこ、噛むから……」
 その言葉はいつも副都心の肌へ牙を突き立てる前に発される、有楽町のお決まりの言葉だった。
 吸いたいのならば吸えばいい、人間ではないなんてどうって事ない秘密、他人に言いはしない、と言ったのは紛れもなく副都心自身であるのに、有楽町はいつまで経っても悪いのは自分だと思っているらしい。
(……本当に悪いのは)
 それにかこつけて彼を貪っている自分の方だ。食材と言う名で傍にいようとする自分の方だ。
「大丈夫ですよ先輩、後で僕も仕返ししてあげますから」
「は……? 仕返し?」
 肩の辺りの匂いを嗅ぐように鼻を押し当てていた有楽町が、ふっと顔を上げて不思議そうな表情を見せた。
 つくづく立場が逆でなくてよかった。もし自分が人の血を吸わねば生き長らえる事の出来ない生き物で彼がそうでなかったとしたら、きっと自分は有楽町を飼い殺す事に躍起になってしまうだろう。
 それは少し嫌だった。彼にはいつでも笑っていて欲しいし、やっぱり自分には彼の尻に敷かれているのが似合っている。
「ええ、僕も噛み付いてあげますから。絶対に人には言えないようなところに、ね」
 何を考えたのやら、支えている腰がふるりと震える。その事に口元を歪めながら、副都心は己の血を差し出す為に首を傾けた。
「ほら、どうぞ? たんと召し上がって下さい」
「おま、え、何言ってるか自覚ないだろ……」
「自覚がないのは先輩の方です」
 全く、どれだけ煽れば気が済むのだろうか。
 早く、と首を更に傾けて急かすと、観念したように露わになったところへ有楽町の唇が下りた。
 痛い事は嫌いだ。だが、彼に血を吸われるのは嫌いじゃなかった。心の方がそれを望んでいると言う事もあるが、何と言うか、噛み方がひどくいやらしいのだ。
 ぺたりと肩の辺りに押し付けられた唇から、ちろりと赤い舌が覗く。そのまま噛むつもりらしい箇所へ舌を這わせて、有楽町はそこへべったりと唾液を塗りつけた。
 思わずふ、と口から息が抜けそうになる。彼としては吸血の準備のつもりなのだろうが、副都心からしてみればそれは熱烈な愛撫に他ならない。
 そうして、有楽町は知ってか知らずか己の唇をひと舐めしてから己の唾液で濡れた副都心の肌へ顔を埋めた。
「っ――――」
 牙が皮膚を裂いて、血管へ至る。ぶちり、と何かが破ける音を聞き流しながら、副都心は有楽町の丸まった背筋をそっと撫でた。痛みを覚えないように、何とか他の事へ気を逸らす。
 耳のすぐ近くで喉が何かを嚥下する音が聞こえる。ついでに言えば、ひどく満足げな、恍惚の甘やかな吐息も。
 んく、と血を飲み下した唇の端から、赤いものが一筋首へと零れ落ちてゆく。流れるものが自分の血であるのが何となく信じられないまま流れに逆らって指を動かすと、あ、と有楽町の口から声が漏れた。
「悪い………」
「いいえ、それより、止血してくれました?」
「あ」
 吸血鬼が噛み付いた痕は、きちんと手順を踏んで処置せねば血が止まらない、らしい。
 有楽町本人が言うので間違いのだろうが、血を吸い終えたばかりでぼんやりしている彼のもたもた手付きに任せているともどかしくてしょうがない。軟膏を塗り、包帯を巻きつける有楽町の頬を捕らえてこちらを向かせると、ほら、と副都心は先程首筋をなぞった指を彼の口先へと突きつけた。
「………ん」
 包帯を離さぬまま、全く疑問を感じる事なく有楽町は副都心の指を口に含んだ。曰く、味が合う、と言う血をこそぐように丁寧に舌を這わせる顔は、自分が何をしでかしているか分かってない表情を浮かべていた。
「よし、止血出来た、ぞ………っ?」
 舐めていた指から唇と舌を離して、包帯の両端をぎゅっと結び合わせた有楽町がほっと安堵の表情を浮かべた瞬間を狙って、ぐっと肩を押し付ける形でシーツへと押し倒す。ようやく副都心がどんな顔をしているかを理解した有楽町が早速血色の戻った顔をぼっと赤くさせたが、副都心の知った事ではなかった。
「それじゃあ、宣言通りいただきます」
「え、あ、おまっ……!」
「先輩、さっき噛み付いていいって言ったじゃないですか。もう忘れたんですか?」
「それはお前が勝手に言ってただ、け、んっ――!」
 人の膝の上で指をくわえた人が言うにしては、あまりにそっけない言葉だった。あれだけ散々人の事を煽って誘っておいて知らん顔とは、吸血鬼とは面の皮の厚い生き物らしい。
 鉄臭い唇を蹂躙して、中途半端に腕にまとわりつくシャツを脱がせてしまう。濃厚なキスに息を乱す有楽町を見下ろして、最終宣告代わりに告げる言葉は、一つ。
「どこでもお好きな所を噛んで上げますよ、先輩。何しろ僕は先輩が大好きですからね」
「っ………そんな事晴れやかな顔して言うなよ、変態!」
 言い切るや否や、ぼすんと枕が顔に押し付けられる。真っ白に染まった視界の向こうから聞こえた言葉は自分の数倍も生きていると言うにしてはうぶ過ぎて、つい副都心は行為に及ぶ前に声を上げて笑ってしまったのであった。